東京・渋谷で隔月開催されているノンジャンル系うたものDJイヴェント「Pure Pop For Now People」などに関する情報のブログです。
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by soundofmusic
| 2010-12-31 21:56
遅ればせながら、みなさまあけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。正月恒例の、2023年のグッド音楽です。
【概況】 2023年はCD187枚、レコード204枚の計391枚を購入。2022年の総枚数が270枚でしたから、前年比45%増。メディアごとの割合は、CD48%、LP52%。2022年に続いて、アナログのほうが多くなりました。買うのは安レコ中心で、今回選んだLPの中でいちばん高かったものは1300円、半分くらいは500円以下。買ったもの全体としてもそんな感じだったと思います。 聴いたもの全体の傾向はあるようなないような、ですが、なんだかんだでシティ・ポップ周辺をしばしばうろうろしていた気がします。詳しくは後述。 あとは、輸入盤の新譜CDを買わなくなった。正確には、買えなくなった。いままでは、ざっくり定価1800円くらいで売られていたとすると、HMVのマルチバイ割引で1200円とか1400円とかで買えていて、だったら新品で買っちゃおう、ってなっていたところ、いまや基本2000円以上でしょ。買わないし買えないよ。中古で買えばいい? それはそのとおりで、しかし値段が上がっている=日本に入ってくる絶対数が減っている、ということでもあって、体感ではここ1、2年以内に出ためぼしい新譜、ぜんぜん値崩れしません。これからもきっとそういう状態が続くのでしょうね。海外旅行していると、国によっては、誰が買うんだよこれ、みたいな値段で欧米からの輸入盤が売られている場面に出くわす機会がありますが、日本もそうなっていくんでしょう。 購入以外の聴取活動としては、買うか買わないかを決めるためのYouTubeやアップルミュージックでの試聴は頻繁におこないました。とくにアップルミュージックは1曲あたり45秒くらい聴けるので、これでアルバム全曲試聴すればもう半分買って聴いたようなもんだなとよく思っていました。盤を買ったもの以外だと、Lampとローリング・ストーンズの新譜はSpotifyでそれぞれ1回ずつくらい通しで聴いた気がします。 その他の音楽関係トピック。年末に自分の所属している派遣会社のホームページを見ていて、福利厚生にブルーノートとコットンクラブの割引があった。1000円引きだからまあたいしたことないけど、なにが悔しいって、数年に一度くらいしか行かないこの2店に、2023年は2回も行ってたってこと! 次回行く際は忘れずにこのサーヴィスを利用したい。 【グッド・アルバム】 以下、2023年のグッド・アルバム12枚。並びは買った順。 ◎:長谷川きよし『アナザー・ドア』(1978年/LP) ◇:井上陽水『スニーカーダンサー』(1979年/LP) ●:John Culliton Mahoney『Love Not Guaranteed』(1973年/LP) ▲:Erasmo Carlos『Mesmo Que Seja Eu』(1971年~2002年録音/2002年/CDボックス) ■:サーカス『ワンダフル・ミュージック』(1980年/LP) △:サローマ(Saloma)『ポリネシア・マンボ~南海の国際都市歌謡(Dendang Saloma)』(1955年頃~1962年頃録音/2013年/CD) ≠:Randy Handley『Keepsake』(1975年/LP) §:Mason Williams『Music By Mason Williams』(1969年/LP) ▽:Dom Salvador『Dom Salvador』(1969年/CD) □:Cindy Kallet『2』(1983年/LP) ◆:Honeytree『Melodies In Me』(1978年/LP) ▼:Artie Traum『Life On Earth』(1977年/LP) せっかくなので、聴く方法も書いておきます。盤で所有しようと思わなければ、ここに挙げたアルバムの半数くらいは、正規のサブスクリプション・サーヴィスや違法アップロードなどでアルバム全体が聴けるはずです。ほかのものについても、レコ屋のサイトで試聴できたり、曲単体がYouTubeにあったりするので、なんらかの形での確認はできると思います。ではコメント。 ◎:長谷川きよし『アナザー・ドア』 2021年12月、ユニオンレコード新宿にて購入。380円。だいぶ前に買ったものがこうしてランク・イン入りしているのは、2023年になってからふとした拍子で聴き直して好印象だったからですが、好印象になった理由のひとつに、2023年におこなっていた「シティ・ポップとしての歌謡曲」の購入・聴取活動によって、いままでうっすらと持っていた、歌謡曲的なるものへの抵抗感が減ってきたことはあると思います。これについては後述します(機会があれば口述もするかも)。 長谷川きよしの名前を初めて認識したのは、彼の名曲「卒業」をムーンライダーズがカヴァーしたのを1995年に聴いたときだったと思いますが、そういやごく最近、尾崎豊の「卒業」を長谷川きよしがカヴァーしている動画も見て……なんて話をしているといつまでも終わらないので省略。それからざっと30年、なんだかんだで長谷川きよしの作品はLPとCDあわせて10枚くらいは買ってきたはずで、でも愛聴するとか、好きなミュージシャンとして名前が浮かぶとか、なんか最近おすすめある? と訊かれたときに(訊かれませんが)名前を出すとか、そういうあれにはたぶん一度もなっていない。そのかわり、長谷川きよしについて思うことはいつもひとつで、それは、「ひとりの人間が持っているものを全部出すと、客から見るとわかりづらくなってかえってサーヴィスが悪くなるんだな」です。 シャンソン、フォーク、フラメンコ、サンバなど、東欧からイベリア半島を経て新大陸に至る幅広い地域の地図をギターで描き、ひとつのアルバムに複数の要素を入れ込んできがちなので雑多な印象になってしまうのはどうしてもやむを得ない。でも、盲目でラテン・フレイヴァーのギター弾き語りという共通点から長谷川とよく比較されるホセ・フェリシアーノもさまざまな要素を持っている人ですが、でもとっちらかって焦点が絞れていないような印象は彼にはない。おそらく(本人と周囲の)プロデュース力がすぐれているからでしょう。 この『アナザー・ドア』は、比較的フリー・ソウル的なまとまりを見せていて、彼の作品歴の中でも1、2を争う名盤のような気がします。アルバムのジャケットにはエレキ・ギター(シールドはつながっていない)を構えて直立した写真が使われているのですが、クレジットを見ると本人はエレキ・ギターは弾いておらず、それどころかトレード・マークのギター自体、1曲でソロをとっているだけでほぼ触ってもいない。 本作を聴き直してここに入れることになったきっかけは、毎月参加しているDJパーティ「レ・ビブラシオン」でした。参加メムバーの中ではわたしがいちばんの若輩の部類で、まあそれはどうでもいいんですが、ある回で持ち時間がいつもより長めになることがわかり、家で選曲しながらこのアルバムを聴いていたら、B面の「人の心は移ろいゆくもの」が異常にタイト、かつ軽くブラジルっぽいサウダーヂもあってかっこいいことについ気付いてしまいました。5分くらいあって長いので普段であればDJで使うことはしないのですが、これは使わざるを得まいと思って流してみたところ、思わず自分でも聴き惚れてしまうほどでした。わたしもそこそこいい歳なので、高いレコードの中にはそれなりの理由があってそうなっているものがあるのは理解していますし、自分でも年に2、3枚は買ったりもしますが、でもやっぱり安くていいレコードはいっぱいあるので、そういうものを中心に買って、浮いた金で映画を見たりおいしいものを食べたりするのがいいですね。2024年は、一度くらいライヴも聴きに行ってみたい。 ◇:井上陽水『スニーカーダンサー』 ここからは2023年の購入盤。3月、理由は忘れたもののなにかのタイミングで不意に井上陽水が聴きたくなって4枚買い、その後も買い足して年間で合計6枚、陽水を購入しました。これはディスクユニオン高田馬場店で432円。 行きがかり上、わたしと陽水とのこれまでのかかわりを書いておくと、教養として持っていた『氷の世界』などの初期の数枚、出てから何年もたってやっぱり持っていたほうがよさそうだと気付いて安く買った奥田民生との共作アルバム、大宮ソニックシティでのライヴ体験(2017年)、あとなんか安かったカヴァー集、そのくらいのもんですが、アンドレ・カンドレ名義でのデビュー曲「カンドレ・マンドレ」を聴くと、この時点で充分異常な世界ができあがっていて、ギターを弾いて歌っているからといって、ジャンルとしてのフォークや弾き語りの中に入れるのはそもそも無理がある人だったんだろうなと感じます(それについては長谷川きよしも同様)。 通算7枚目くらいのこのアルバムは、星勝と高中正義が半分ずつ編曲を手掛けているのがポイントでしょうかね。星勝といえば陽水がデビュー時からいちばん懇意にしてきた編曲家で、前作である6枚目『ホワイト』は全曲星勝でした。ところが次作にあたる8枚目『エヴリ・ナイト』には星は不参加で、そうなると、このアルバムは脱・星勝の一里塚なのかと早合点してしまいそうですが、9枚目『あやしい夜をまって』にはふたたび参加していますので、つまりたぶん、人間関係なんてそんな単純なものじゃない。 タイトル曲や「フェミニスト」なんかは陽水版シティ・ポップとしても聴ける爽快なグルーヴで、かと思うと小室等が曲を提供した「事件」(作詞は陽水)は、取組を終えた力士が観客にカミソリで傷つけられた顛末を描いたレゲエ調の異色作。でも「異色作」って、陽水にいちばんふさわしくない形容な気がしますね。異色であるのが当たり前すぎて逆に自然、な人なので。よく、アーティストやその作品について、その人の名を冠して「○○ワールド」と言ったりしますが、本来であればその言葉は、陽水級の人にこそはじめて使われるべきでしょう。 ところで年末だったか、陽水のこれじゃないアルバムを家で聴いていたら、妻が、「これ、ゆらゆら帝国の人?」と訊いてきました。たぶん川島裕二が関わっていた曲だったと思うのですが、井上陽水と坂本慎太郎のツーマンなんか、たしかに見てみたい気もします。 ●:John Culliton Mahoney『Love Not Guaranteed』 2023年も活用しまくったディスクユニオンのウォント・リスト経由で購入。1300円。このアルバム、2か月に1回くらいディスクユニオンに新規入荷するんですが、安いときでも2800円とかで、欲しいけど高いよなあと指をくわえていたら、あるとき突然この価格で出ていて、すかさず確保しました。たしかジャケ不良とかだったのかな。もう覚えていません。 クレジットを見るとマホニーは歌とギターとハーモニカを担当しているようで、しかし、いわゆる「歌とギター系のSSW作品」の感じは稀薄です。まあそんなこと言ったら陽水もそうだけど。細かいシャッフル・ビートにメロウなエレピが乗っかるB面冒頭の「サマー・ラヴ」がいわゆるキラー・トラックで、そこについ耳が行くものの、それ以外の曲も一筋縄ではないフックがそこかしこにあって飽きさせません。本作について検索すると、10店舗くらいのセレクト・ショップでの紹介記事がすぐに見つかりますが、説明が店によってバラバラなのが面白い。たとえばタイトル曲についてはこんな感じ。どんな曲なんだよと思ってしまいますが、別にそんなに難しい音楽ではない。YouTubeかなんかで聴けますので聴いてみてください。 ・ジャジー&サイケ・ファンクなサウンドにハードボイルドなヴォーカルがマッチしたアーシーな魅力に溢れるタイトル曲 ・Gil Scott Heron等を思わす渋めのヴォーカル・ジャズファンク ・ソフトロック~サイケデリック・ジャズな骨太サウンドが繰り広げるタイトル曲 コピペしたついでに、どこかのレコ屋のサイトのアルバム全体の紹介も引用しておきますか。わたしはあんまりカントリーっぽいとは思ってないんですけど。 ・カントリーをベースとしながらもSSW時代の到来を背景によりメロディアスな方向へと進んだ隠れた傑作。 ちなみにユニオンでは「MELLOW FOLKY定番/FREE SOUL」と紹介してますね。それでいい気がする。 マホニーさんはこのアルバムが唯一作とされていて、Discogsでもそうなってます。でも、2012年に『マイ・ホーム・タウン』というアルバムを出していますね。サブスクで聴いてみるとなかなか悪くない。CDでも出ているようなので、せっかくなのでいつか入手したいところですが、難しそうかな。 ▲:Erasmo Carlos『Mesmo Que Seja Eu』 1971年から2002年までのオリジナル・アルバム11枚に、ボーナス・ディスク2枚(レア曲集とほかのアーティストとのコラボ曲集)が一緒になった13枚組CD。ディスクとブックレットがぴったり収まる大きさの箱にちょうど収まっています。自宅近くのディスクユニオン池袋店で売られているのを見かけて、おっと思ったものの、10850円という価格にひるんで冷静さを取り戻して退店。帰宅後、いつものルーティーン(バッハの無伴奏チェロ組曲を聴きながらサウナ室で瞑想)をこなしているうちに、いや、13枚のうち持っているのは5枚(CDで2枚、LPで3枚)だけなのだから、むしろ買うほうが自然というか当然だろうとの判断に達しました。そうなるともう気が気じゃない。翌日の終業後、もし売れてしまっていたらどうしようとどきどきしながら訪店し、無事確保。こんな気分のレコ買いもひさしぶりでした。ひさしぶりといえば、1万円以上の「物体」を買うのなんていつ以来だ? とも思ったものの、2023年は冷蔵庫を買い替えているし、家の一角を改造して上記のサウナ室にするのにも80万円くらいかかっていました。ともかく、純粋に未聴のアルバムが8枚手に入ると考えただけでも、10850円は実質無料みたいなもんです。 エラズモ・カルロスは、2018年のグッド音楽で『ソーニョス・イ・メモリアス』(1972年)が選ばれていて、そこには「英米音楽の強い影響を隠すでもなく、それをポルトガル語のブラジル音楽の中に完全に溶かし込むことに成功している稀有なアルバム」と評されているのですが、というかわざわざ受身形にする必要もなくわたし自身が選んでいるしそう書いているのですが、作品を聴いていてもよくわからないのは、ブラジル人にとって彼がどんな存在だったのか、です。そんなことを考えるようになったのも、2023年、シティ・ポップとそれを取り巻く現象に接するうちに、いままでになかった、日本国外からの日本音楽への視線のさまざまなありかたを意識する機会が増えたからです。「いや、あなたがたはそういうふうにこの『音楽』を発見したり消費したりするだろうけど、われわれとしてはそれに対して言いたいことがないわけでもないよ」という、誰かに訊かれたら(訊かれない)そう言うかもしれないけど、ディスクユニオンやタワレコでシティ・ポップを買っている外国人観光客にわざわざ自分から声をかけて言いに行ったりはしない、思い。 いわゆる「ワールド・ミュージック」については後述するような気もしますが、そしてまた、ブラジル音楽は巨大すぎてその呼び名に含まれることも稀なわけですが、せっかくよその土地の音楽を聴くのだったら、それがいま・ここにいる自分の耳と脳にどう響くのかだけではなくて、つくられたそのとき・その場所でどんなふうに聴かれていたのかも、多少は知ってみたい気がします。ブラジル音楽については、どこで聞いたか忘れましたが、こんな話を覚えています。曰く、カエターノ・ヴェローゾは老若男女を問わず人気があり、ジョルジュ・ベン(ジルベルト・ジルだったかも)はインテリしか聴かない音楽だ、と。わたしなんかの印象だと、カエターノは高踏的でインテリ向けであり、対照的にベンとかジルには、庶民に訴えかける肉体感覚がある、と思えるんですけどね。そういえば太田さんも、東京芸術劇場にカエターノを見に行ったとき、「こんなにコードが複雑な曲を演奏するのはたいへんだなあ」みたいに言っていた気がしますし。しかしこういうことは結局のところ、現地の人(か、その感覚をインストールしている人)にしかわからないものなのだとあきらめています。ただしわからなければわからないなりに自分の知識と経験に引き付けて考えてみるしかないのであって、そこでわたしが直感的にエラズモ・カルロスについて捻り出してみたフレーズが、「ブラジルの井上陽水」。これが正しいのかどうか、確かめてみる相手もいないので答えは一生わからないままだと思いますが、たぶん、わりと正しいはず。 ところで現地の感覚の話をすると、ここ数年、豊島区の区民センターの集会室で週1回開かれている日本語の会話サークルに、日本語のネイティヴ・スピーカーとしてヴォランティアで参加しています。参加者の9割くらいが中国人で、食べ物の話になるといつも、餃子と麺とご飯を一緒に食べる日本人の習慣はおかしい、と指摘されます。彼らがそういう考え方であることは知識としては知っていましたが、ほとんど糾弾されるが如き剣幕で指摘されると、この感覚を自分が体得する日は一生訪れないだろうな、と変な感慨を持ってしまいます。これについては自分なりの仮説があって、つまり東京の中心に皇居があるように和食の中心には白飯があって、白飯以外のすべての料理は対=白飯、つまりおかずになる。というかおかずにしかなりえない。対して中華料理は分散的=相互牽制的アンサンブルであって、そこには日本の食習慣がいつも意識しているような形での「主食」は存在していないのではないかと……エラズモ・カルロスと関係ない話になりました。続きはまたどこかで。 ■:サーカス『ワンダフル・ミュージック』 2023年のサーカス活動(サー活)は、年明け初のディスクユニオン訪問時に『ニュー・ホライズン』を買ったのを皮切りに、なんだかんだで4枚くらい買いました。これはディスクユニオン池袋店で300円。安い。 2023年は「2023年の時点でのシティ・ポップ」として聴ける感じの、ニュー・ミュージックや歌謡曲の安いレコードをちょくちょく買っていて、そうしていると自然に、これは買い、これはアウト、の境界線の策定を日々迫られるわけです。21世紀になっても世界の各地で境界線をめぐる戦いがおこなわれていて、ただしこのジャンルの境界争いは軍事費はかからないし誰とも衝突しないのでどんどんおこなえばいいと思うのですが、でもネットに書いたりするとどこかからドローン攻撃される恐れもあるのでやはり真面目にやらないといけませんね。 そうした思索の中で自然と、シティ・ポップと渋谷系の関係について考える時間も増えていきました。単純に言うとどちらも「洋楽」の強い影響下にある日本の音楽で、ただし決定的な違いとして、渋谷系にはポスト・パンク/ポスト・モダン的なメンタリティ(自意識)が不可欠で、シティ・ポップにはそれはなくてもよい。なんでもかんでも古い音楽を雑多に取り込んで再構成していたかのように思えた渋谷系ですが、フュージョンだけは、時代が近すぎたせいもあってか鬼門扱い、心理的距離は遠かったですよね。思想的な面を抜きにしても、90年代前半の感覚だと、耳で聴いた音の感じとしてアウトだったし。ヒップホップ方面の耳は無思想な思想なので事情はまた違ったと思いますし、また、現代になってみれば、パンクとフュージョンを同じスタンスで聴いて、アウフヘーベンした音楽をつくっている若者もどこかにいるのでしょうけど。 渋谷系で思い出すのは、ピチカート・ファイヴの『カップルズ』について、発売当時、ハイ・ファイ・セットだかサーカスだかを引き合いに出されてメムバーが(小西康陽が、だと思いますが)気分を害したみたいな話、あれはどこで読んだのだったか。つくっている本人の気持ちをおもんぱかれば、一緒にするなよとの怒りはよく理解できますが、ポスト・パンク的心性の有無なんてどうでもいい、という聴取態度も、むしろそれはそれで渋谷系っぽい気がします。たとえばハイ・ファイ・セットの「いつかスターに」なんて、小西さんに怒られるのを覚悟の上で『カップルズ』の曲とつなげてみたい。 で、サーカスですが、このアルバムはニューヨーク録音で、当地のフュージョンの名プレイヤーたち(外人)が多数参加しているようです。気持ちよい演奏と気持ちよいハーモニーによってつくられる、非ロック的なアンサンブル。ニューヨークあたりで働いているとおぼしき青年が仕事がいやになって長距離バスで南に向かう「マイアミドリーミング」なんか、「アメリカ横断ウルトラクイズ」時代の表現というか、アメリカという国が自分にとって半分現実、半分架空の存在だった頃を思い出させてくれます。この曲は作詞:山川啓介、作曲:滝沢洋一ですが、そういえば『ニュー・ホライズン』には同じコムビによる「六月の花嫁」というしゃれた曲が入っていて、これなんかも小西さんに怒られるのを覚悟の上で『カップルズ』の曲とつなげてみたい。 △:サローマ『ポリネシア・マンボ~南海の国際都市歌謡』 ディスクユニオンのウォント・リスト経由で購入。1500円。高いものもたまには買うんです。これはなんで買ったんだったかな。どこかでこの人について読んで気になったからだと思います。経緯は忘れました。 サローマは1935年、シンガポール生まれの歌手。当時はここはイギリス領で、第二次大戦中は日本軍によって占領され、戦後はまた英領に戻り、1959年には自治権を獲得、1963年には新しく結成されたマレイシアの一部になるものの1965年には分離独立、というのが歴史的変遷。サローマは最初はシンガポールで活動し、1964年末からはクアラ・ルンプールに拠点を移しました。日本編集のこのコンピレイションは、シンガポール時代の録音をまとめたもの。1990年代に出ていた、マレイシア移住後の録音のベスト盤『マレイシアの花』もあとから購入しました。 内容は、サブ・タイトルの「南海の国際都市歌謡」(「国際都市」には「コスモポリタン・シティ」とルビあり)に端的にあらわれています。聴く人の年齢、出身地、人種、音楽的経験によって聞こえ方がさまざまに異なった様相を見せる、そんな音楽ですが(どんな音楽もそうっちゃそうなんだけど)、わたしがとくに興味を惹かれたのは、アメリカ音楽との距離感でした。同時代の日本のポピュラー音楽でおこなわれていたアメリカ音楽のローカライズの試みと似た作業がここでも展開されていて、ただしもちろん、日本でもシンガポールでも、その試みにはその土地独自のやり方があります。最初は、このCDの銀色の記録面を鏡のようにして日本やアメリカをチラチラ写し見ているつもりだったのが、だんだんそれ以外の部分に耳が向いてくる、その過程が面白かった。具体的には、メロディ展開やコブシを汎アジア歌謡曲として楽しみつつも、ふとした拍子に出現するインド~アラビアっぽさに、「これは日本の音楽にはほぼない要素だな」と不意に我に返るといった具合。 そうした要素が日本にはない理由は、おそらく単に地理的・文化的距離が遠かったからだと思うのですが、じゃあそのへんの音楽の影響はどのへんまで及んでいたのか。2023年に知ってちょっと面白いと思ったのが、テレサ・テン「甜蜜蜜」(日本以外での彼女の代表曲?)の原曲がインドネシアの曲だったこと。そう言われてみるとそうしたフレイヴァーが、ほんのりある。で、それと前後して、台湾の「帽子の歌姫」こと鳳飛飛の「心戀」もインドネシアの曲(愛国歌?)が原曲であると知り、どういう経緯でこの地域間のこうした文化交流が成立したのか不思議に感じています。この2曲がたまたまなのか、それとも……ともかく、シンガポール~マレー半島は中華系のレコードもたくさん流通していたはずで、今年か来年あたり、そのへんにレコ買いトゥアーに行ってみたいと思っています。 ところで、このサローマのCDの選曲と解説は田中勝則で、たいへん勉強になります。年末に久保田麻琴「世界の音を訪ねる」(岩波新書)を読んでいたら、この本は前半は久保田自身による世界のフェスめぐり紀行文、後半は田中による久保田の超ロング・インタヴューというか聞き書き音楽遍歴で、本全体の構成としては正直微妙な感がなきにしもあらずなんですが、ひとりの音楽家の成り立ちと仕事の記録としてめちゃくちゃ面白かった。80年代後半~90年代前半のワールド・ミュージックのブーム(という名の商業展開)については、そのうち大規模な見直しが始まるはずで、そうなれば、(わたしにとって)いまいち正体がつかみきれない久保田の仕事の全体像についても、知り直す機会が得られることでしょう……サローマと関係ない話になりました。続きはまたどこかで。 ≠:Randy Handley『Keepsake』 ディスクユニオンのウォント・リスト経由で購入。1100円。いかにも韓国のビッグ・ピンクあたりからCD出ていてもおかしくなさそうなんですが、未CD化みたいです。人呼んで「コロラドのヴァン・モリスン」。アロハ・シャツを着た、ちょいぽちゃ犬顔の男が立っているジャケからは、ちょっといい感じの内容が容易に想像できるわけですが、たぶん、みなさんが思っているより、いいです。真似をしているとか影響を受けているのではなく、『アストラル・ウィークス』~『ムーンダンス』あたりのヴァン・モリスンと自然に通じ合ってしまったような感触。リリース元はコロラド州デンヴァーのビスケット・シティ・レコーズ。田舎のレーベルとあなどるなかれ、細かいニュアンスまで見事にとらえる録音のよさにも驚かされます。いま調べたら、アコースティック・スウィング界で多少有名なオフィーリア・スウィング・バンドもこのレーベルから出ていたんですね。ほかにどんな人たちがいた会社なのかは知りませんが、見かけたら気にしてみたいところです。 で、このアルバム、SSWものなのかと思いきや、自作曲はゼロ。有名曲のカヴァーもなく、誰がつくったのやらよくわからぬ曲がずらりと並んでいます。おそらくレーベル関係者や地元の音楽仲間の手によるものと想像します。じゃあハンドリーさんは純然たる歌手なのかと思うと、80年代に入ってからはジョン・デンヴァー、ダイアナ・ロス、カーペンターズなんかに曲を提供していたりもするのでよくわからないんですよね。あとから勉強して、作曲もするようになったんでしょうか。 ネット上ではよく、この『Keepsake』が唯一作みたいに紹介がなされているものの、Discogsによると1988年にもアルバム(2作目?)が出ています。詳しい情報が見当たらず、試聴できるところも発見できなかったので、詳細は不明。ところで、なんとなく思っていることをここで書こうかな。よく、アルバム1枚とかで「消える」人っているじゃないですか。最近ようやく、あれってなんなんだろうと考えるようになりました。なんなんだろうというか、継続的にリリースを積み重ねていく難しさ、みたいなこと。単に才能ややる気の問題だけではなく、そもそも商業的に続けていくとしたらある程度売れないといけないわけだし。一瞬にせよレコード会社に在籍、もしくはワン・ショット契約してそれなりの感じで作品を出して、でもいなくなった人たちって無数にいると想像できますが、みんなどこでなにしてるんでしょうね。仕事はしないと食っていけない場合が多いでしょうから、なにかしてはいるんでしょう。元気にしててほしいです。 §:Mason Williams『Music By Mason Williams』 8月、ゴートのライヴを見に名古屋に行った際、ディスクユニオンにて発見、購入。342円。どこのコーナーにあったかが記憶にない。フォーク/SSWのところだったか、カントリー/ブルーグラスでだったか。手にとって、メイソン・ウィリアムズってなんだっけ、そういやニューオーリンズで『ザ・メイソン・ウィリアムズ・フォノグラフ・レコード』を買ったな、と思い出し、ついでに、そのアルバムにあまりピンと来ていなかったことも思い出した。 1曲目がとりあえず知ってる曲「グリーンスリーヴス」だったので試聴してみると、流れるが如きギターとオーケストレイションのブレンドが見事で、こりゃ「田舎のバカラック」だな(スタックリッジが「田舎のビートルズ」と呼ばれていたのと同じノリで)、と購入。調べてみると、大ヒット曲「クラシカル・ガス」(『~フォノグラフ・レコード』収録)の時点ですでに、バカラックとヴァン・ダイク・パークスを引き合いに出して語られるような人だったんですね。ほかの曲はカントリー風あり、ソフト・ロック風コーラスあり、イージー・リスニング風あり、SSW風ありと、必要以上にヴァラエティに富んでいて、多面的な性格を持った総合音楽家だったのだとわかります。 ブックレットに細かく書いてある参加メンバーを見ていくと、ハル・ブレイン、ジョン・ハートフォード、ジェイムズ・バートン、クロディーヌ・ロンジェなどの名前があり、えっクロディーヌ、声が聞こえないけどどこに参加してるの、と思ったら、その名も「クロディーヌの歌」という曲(インスト)を、ウィリアムズと共作しているようでした。 本作を含む5枚のアルバムをまとめたCD2枚組をあとで聴いてみると、多才ぶりはもちろん味わえるのですが、さすがにほかの作品はアルバム単位でなんとなく方向性がまとまっていて、このアルバムがいちばん盛り沢山でとっちらかっている印象。そうすると『メイソン・ウィリアムズによる音楽』とは、なにも考えていないようでいて言い得て妙なタイトル。ちなみに、秋のアメリカ旅行の際にレコード屋に行ってみると、この人のレコードはおおむねカントリーのコーナーに置いてあるようでした。 ▽:Dom Salvador『Dom Salvador』 9月に出た「ブラジル音楽の秘宝」シリーズは、日本初CD化作品や世界初CD化作品を多数含むありがたいシリーズで、全16枚のうち、試聴してそれほどでもなかったものと、すでに持っているものを除く11枚を新品で購入しました。どうでもいい話ではありますがこの税込み1400円というのがわたしにとっては微妙な価格で、この記事はすべてわたしのことなのでほかの人にとってはどうでもいい些事を遠慮なく書かせてもらうと、たとえば1200円とかであれば心置きなく買えますし、逆に1800円とかだったらもっと厳選して買っていたはず。1400円だと、なんとなく不快な思いをしながら欲しいものを全部買わざるを得ないのです。ただし悪あがきはさせてもらって、1400円×11枚だと15400円になるところを、タワレコの「○○円以上買うと○○円引き」のオンライン・クーポンを駆使しまくって、11枚を3つの注文に分けて購入、合計1800円の値引きに成功しました。 本作はタンバ・トリオのエルシオ・ミリートがプロデュースを担当。彼がアメリカから大量に持ち帰ったファンクやソウルの影響でこのサウンドが出来上がったとライナーに書いてありました。しゃきっとしたヒップなリズム、オルガンや電気ベースやホーンのあしらいは、それ以前のいわゆるジャズ・ボサやなんかとは一線を画した黒い音で、そう言われてみるとブラジル音楽としてはあんまり聴いたことがない類のもの。レパートリーはサルヴァドールの自作曲が中心で、残りはほぼブラジル人によるものであるところ、1曲だけ北米の曲のカヴァーがあって、それがシカゴのソウル歌手、バーバラ・アクリンの「ビー・バイ・マイ・サイド」。原曲と聴き比べると、なるほどたしかにそうなんだけど……でもそう来るか、と語彙力ゼロの間抜け面で驚いてしまう名解釈。歌ではなくピアノでシャウトしている。そういえばサルヴァドール、70年代に入ってからはバンド「アボリサォン」を従えてさらにソウルフルな領域に踏み込んで行ったんだったな、とすっかり忘れていたことを思い出させてくれるアルバム。本作の世界初CD化で、ミッシング・リンクがつながりました。 □:Cindy Kallet『2』 秋のアメリカ旅行の際、米・コロラド州デンヴァー、トゥイスト&シャウトにて購入。$4.40≒670円。この旅行、出発直前に体調を崩し、日程の大半を風邪が抜けきらないままの状態で過ごすハメになり心残り感が半端なかったのですが、体調不良であまりがっつりレコ狩りができなかったので散財しなくてよかったとは言えるかもしれません。この店はアメリカでありがちなバカでかい平屋で、仕切り板の細かさ(ユーミンもあった)を見ていると、ここにないものはおそらくデンヴァーのどこに行っても見つけられまいとすら思わされます。もちろん全部見る時間はないので、適当につまみ見していたときにフォークのコーナーでこれが手に引っ付いてきました。ジャケも地味な未知の盤によくぞ興味を持ったと自分をほめてやりたいところですが、たぶん値段が安かったからでしょう。試聴してみるといまいちキャッチーさには欠けていて、でもなんなく気になって買って持ち帰ってきた勘のよさは我ながらさすがでした。これはスマートフォンで試聴しただけでは本当の味はわからないレコード。と書くと、そんなもんみんなそうだろう、と言われそうですが、そんなことはなくて、試聴してよかったやつはいいレコードだし、よくなかったから買わない。 ギター1本の弾き語り、もしくはア・カペラで、いわゆるエフェクト的なものはごく一部の曲で自身のヴォーカルを重ねているくらいだと思いますが、弾き語りという形式(ピアノ、ギター問わず)にとくに愛着がない自分がこのレコードにはなぜか強く惹き付けられるものがあり、それはなぜだろうと考えながら愛聴しています。「曲がいい」と言ってしまったらこのレコードの魅力はどう変わってしまうのか、僕なりに何日か考えた上でのやや気恥ずかしい結論のようなものを書くとするなら、埋蔵量なのかなと。ここでいう埋蔵量とは、昔、近田春夫が「考えるヒット」でゆずについて「相変わらずの埋蔵量の大きさを感じさせる」みたいに書いていたことの(勝手な曲解も含む)引用です。 つまり、実際に録音されている音はほぼギターと声だけでも、それが設計図ないしは補助線として機能して、もっと大きくて深い、ありうべき音楽の形を垣間見せてくれる。これはノラオンナのライヴを知っている人にはすぐ通じる話だと思う。そこにあるのは歌とウクレレだけなのに、音が出た瞬間、その背後にフル・オーケストラが立ち上がってくる瞬間が普通にあるのがノラオンナで、ただし誤解を招かないように言っておくと、本来はそうした大きな編成で奏でられるべき音楽だと主張したいわけではないです。もちろんそうなったらそれはそれで素晴らしいものができるに決まっていますが。 具体的な名前を出すと、インスピレイションの源としてジョニ・ミッチェルは確実にありそう。あとはなぜか、そこかしこにキャロル・キングも見え隠れするし、ア・カペラの曲ではサンディ・デニーや、英国トラッドなんかも感じさせてくれる。聴き込んでいくと、まだまだ別の顔を見せてくれそうな気がしています。日々わたしが買っているレコードのほとんどはどこかで名前を聞いたり読んだりしたものなので、このように純粋な未知との遭遇は年に何度もありません。レコード買っててよかった。 ◆:Honeytree『Melodies In Me』 これもまた秋のアメリカ旅行中に購入。とはいっても現地のレコ屋でではないので、経緯を説明しておきます。アメリカのアマゾンでは中古レコードも出品されているのですが、日本に送ってもらうと送料が1枚$20したりとか、あるいはそもそも海外発送してくれなかったりする。というわけで、出発前にアマゾンの送付先の設定を予約済みの現地のホテルに変更しておいて注文する。ホテルにチェック・インする際、キーを渡されて部屋に向かいかけたところで、「ああ、そういえば僕あての荷物が何か届いていないかな? その、君の背中のところにある薄っぺらい段ボールがそうじゃないかな?」とわざとらしく質問してレコードを受け取るわけです。送付先をホテルにするだけではなく、名前も「森山兄(○月○日チェック・イン)」としておく。$3.99+送料$3.99+税$0.31で、計$8.29≒1245円でした。 2017年のグッド音楽で、ハニートゥリーのホワスト・アルバム『ハニートゥリー』(1973年)を選んでおり、「いわゆる70年代のフィメールSSWの最良の部分を凝縮したようなもの」と書いてました。また、「クリスチャン・ミュージック界のキャロル・キング」とも書いていました。ちなみに本作のリリース元は、「読めるけど書けない」(例:顰蹙、ビャンビャン麺)の逆パターンで、「書けるけど読めない」でおなじみのMyrrhレーベルです。キャロル・キングを引き合いに出したのはまったくウソでも大袈裟でもないのですが、スタジオ・アルバムとしては4枚目にあたるこのアルバムのほうが、デビュー時よりもより普遍的なポップス度が高まっています。つまりキャロル・キング度が高い。 冒頭、ゆったりしたディキシーランド・ジャズ風の「ザ・ブロードムーア・ソング」から、曲間なしで2曲目(ドヴォルザークのいわゆる「家路」~自作曲「メロディ」のメドレー)へと続いて行く構成が見事で、このあたりにも自分としては「アメリカ横断ウルトラクイズ」を感じてしまうんですよね。大人になってから自由意志で聴いたどんなアメリカン・ロックよりも、子供の頃にあの番組を見ていて耳に入ってきたグローフェの「マルディ・グラ」(ミシシッピ組曲第4曲)や、アップテンポのバンジョー音楽のほうが、わたしにとってははるかにアメリカなのです。 そんな話のついでに「家路」の、堀内敬三による訳詞(遠き山に日は落ちて~ってやつ)を原詞と読み比べると、訳詞はあきらかに原詞より抹香くさい。原詞はそんなこと歌ってないのに、堀内敬三が勝手に敬虔なピューリタンの労働歌みたいに読み取って、忖度して、過剰にアメリカ化してしまったのではとすら思える。まあ、アメリカという国自体がつねに過剰にアメリカ化しつつある存在だとも言えるので、堀内が100%間違っていたとも思わないのですが。ともかく、大人になってもいまだにアメリカは横断したいしニューヨークには何度でも行ってみたいものです。 ▼:Artie Traum『Life On Earth』 これなんかもいかにも秋のアメリカ旅行で購入したっぽいレコードですが、ディスクユニオンのウォント・リスト経由で購入。980円。なんかいまさらながら異常にユニオン率が高いんですけど、ユニオンがなくなったらいったいどうなるんでしょう。または、ユニオンのない土地に引っ越したとしたら。 アーティ・トラウムといえば、お兄さんにあたるハッピー・トラウムとのデュオで1970年代に3枚くらいのアルバムを残していて、ウッドストック~ブラックホーク~森山弟系の名盤とされています。わたしもそのへんの作品、なんとなく耳にしてきてはいますが、それらを経てのソロでのホワストにあたるこのアルバムには驚きました。まさかのシティ・ポップ。というかAORかな。ぱっと思い出したのは同時期のベン・シドランの作品のいくつかで、まったく違う場所から出発した同い年のふたりが偶然にも最接近したのがここだったのかも、と思えました。ディスコグラフィを丹念に検証していけば、このふたり両方の録音に参加した経験のあるセッション・マンがひとりくらいは見つかるかもしれない。いるかいないか、今度ぜひ一万円(ツェーマン)賭けてみようよ。 と、ここで終わるとちょっとほかのアルバムのところと比べて短いので蛇足をもう少し。たとえばいまが1978年でわたしがトムズ・キャビンの麻田浩だったら、アーティ・トラウムを日本に呼んで井上陽水と対バンさせていたりしたかもしれない。ギターは高中正義に通しで弾いてもらって。わたしにとってレコードを聴く楽しみは、こういう想像をして遊んでみる行為と切り離せないもので、家にあるすべてのレコードがいつの日か、お互いにうっすらと、あるいは濃密に、つながったらいいなと夢見ています。 --- 【その他のグッド】 単独の曲で印象に残ったもの。順不同。 ・アグネス・チャン「夕暮れにララバイ」(YouTube) ・銀霞「愛迷惑我」(YouTube) ・中山恵美子「ニュース速報」(YouTube) アグネス・チャン「夕暮れにララバイ」は、アルバム『愛がみつかりそう シティ・ロマンス』(1985年)に収録。 作詞:竜真知子、作曲:岡本朗。このアルバムは日本語歌唱の日本制作盤ですが、「日本のシティ・ポップの同時代的産物としての東アジアの歌手のアルバム」みたいな風情のジャケットがすばらしい。80年代らしいデジタルなビートと、銅鑼をフィーチュアしたオリエンタルなメロディとの微妙なマッチングが最高で、よく聴きました。何度も聴いているうちに、そういやジェイムズ・ブラウンのアルバムで曲間を銅鑼でつないでいるのがあったよなと思い出し(『ヘル』)、ついでに、そうか、ピチカート・ファイヴ『月面軟着陸』の銅鑼のつかいかたもJBの引用だったのか、と購入から30年たって初めて気付くことができました。 銀霞「愛迷惑我」は、同名アルバム(1982年)に収録。1970年代、台湾でキャンパス・フォーク(校園民歌)が流行っていたらしいことは、台湾音楽に興味を持つはるか前、台北のレコ屋の棚を見ていてなんとなく把握していました。その後、台湾音楽を買うようになり、その時期のフォーク歌手の中で歌謡曲、ないしはニュー・ミュージック的な表現へと変化していった人たちがいたことを知りました。銀霞もそのひとりで、80年代の何枚かのアルバムは、いかにもそうした、都会で働くいい女のイメージをまとっています。この曲はその極め付きでしょう。アルバム全体は歌謡曲っぽいのですが、ほぼこのタイトル曲だけが極上のシティ・ポップです。 ところで、このあいだ台湾のキャンパス・フォークについて検索していて(「調べていて」ってほどじゃない)、コカ・コーラ事件というのを知りました。うろ覚えですが、どこかの大学のイヴェントである歌手がそこにあったコカ・コーラの瓶を引き合いに出して、「アメリカではコカ・コーラを飲んでアメリカの歌を歌う。フィリピンでも台湾でもコカ・コーラを飲んでアメリカの歌を歌っている。自分たちの歌を歌わなくてどうする!」みたいなことを言ったらしい。コカ・コーラの瓶を投げて割った、みたいなヴァージョンもあるようですがこれは伝説っぽい。それ以来「唱自己的歌」がキャンパス・フォークのスローガンになったのだそうです。 そういえばここで書いた、台北流行音樂中心文化館の展示には「大家來唱自己的歌!」と書かれた校園民歌時代のポスターが展示されていた。というか、たぶんコカ・コーラ事件の説明もあったはず。次回行く機会があったら、よく見てみたい。これはつまり、ボブ・ディランが電化して野次られた事件や、日本語のロック論争みたいなもので、たぶん世界のいろんな土地に、その土地と言語にロックやフォークが根付く際の苦闘や軋轢があったんだろうと想像する、というか、あったに違いない。自分が生きて元気に活動できるのがあと10年か20年かわかんないけど、そうしたものを少しでも聞きかじっていけたらいいなと思う。 「ニュース速報」は、1975年リリースのシングル「夕ごはんはカレーにしましょう」のB面。作詞:岡田冨美子、作編曲:佐藤健。アルバムには未収で、ベスト盤CDに入っているようです(未購入)。たしか、誰か(大阪のレコードショップナカだったかな?)がツイートしていて知った気がする曲。どこかで「ヤバ歌謡」と形容されているのも見たように記憶しますが、なんというか、あきらかにおかしいというのではないのに、微妙に遠近感や空間構造が歪んだ部屋のスケッチを見るような歌詞と、メロウなフィラデルフィア・ソウル風の音作りとのマッチングによって、もらい事故のような唯一無二感が産み出されています。いわゆるSSWや、さらには渋谷系の自意識とはまったく別の場所にいるのはわかるものの、なんでこんな曲ができてしまったのか見当もつかず、繰り返し聴きました。ピチカート・ファイヴによる『ベリッシマ』録音時のカヴァーとかが存在しててほしい。なお、この曲、Mach-Hommy「Makrel Jaxon」で、めっちゃドープな感じでサンプリングされております。 --- 最後に、お正月おなじみのこの企画の過去分をご紹介いたします。 2022年のグッド音楽 2021年のグッド音楽 2020年のグッド音楽 2019年のグッド音楽 2018年のグッド音楽 2017年のグッド音楽 2016年のグッド音楽 2015年のグッド音楽 2014年CDグッド10 2013年CDグッド10 #
by soundofmusic
| 2024-02-03 11:12
| 日記
***森山兄***
01 War / Why Can't We Be Friends? 02 鄧麗君(テレサ・テン)/ For Once In My Life 03 Banda Black Rio / Profissionalismo E Isso Ai 04 Arthur Prysock / This Is What You Mean To Me 05 King Curtis / Love Only For You(君だけに愛を) 06 Smoke / I'm So Glad You Came Along 07 Louis Jordan / Sakatumi 08 優河 / ゆらぎ 09 松村拓海 / Spring ☆コメント 01 同名アルバム(1975年)より。物騒な名前のバンドが平和を訴える。(YouTube) 02 スティーヴィー・ワンダーなどで有名な曲。たぶん『ファースト・コンサート』(1977年)に収録のヴァージョン。(YouTube) 03 ブラジルのファンク・バンド。『サッシ・ペレレ』(1980年)より。たぶん彼らのアルバムの中でこれがいちばんEW&F度が高いんじゃないでしょうか。(YouTube) 04 もともとはジャズ系の歌手ですが一時期(フィリー・)ソウル化していました。『オール・マイ・ライフ』(1976年)より。(YouTube) 05 日本のヒット曲を中心にしたアルバム『君だけに愛を』(1968年)より。たぶんこの先もずっとCD化、サブスク化はないでしょう。ザ・タイガースの曲。(YouTube) 06 カンザス・シティのソウル・グループ。『ライズィン』(1976年)より。去年の秋、カンザス・シティに行ったらレコ屋でこれの日本盤再発LPが売ってたよ。(YouTube) 07 (ブラック・)ミュージックの巨匠が日本の有名なレスラー(力士?)のことを歌っている。『ワン・サイデッド・ラヴ・サカツミ』(1968年)より。(YouTube) 08 『言葉のない夜に』(2022年)より。(YouTube) 09 当イヴェントとも関わりのあるフルーティストの最新作『ダイヴ・イン・ザ・スウィング』(2023年)より。ようやくフィジカル・リリースされつつあるようですがしばらくはライヴ会場での手売りでの流通が中心のようです。ライヴに行こう。(Apple Music) ***森山弟*** 01 Break Reform / Mercy 02 Thursdays Love / This Burning Love I Have 03 八代亜紀 / FLY ME TO THE MOON 04 Severine Browne / Stay 05 Beth Rowley / I Shall Be Released 06 東京スカパラダイスオーケストラ / ABC (Justa Root Rock Mix) 07 The Tribulettes / So Foolish ***sabu*** 01 Young Gun Silver Fox / Westside Jet 02 Tanika Charles / Rent Free 03 The Dells / Is It It 04 Charrie Lucas / I Gotta Keep Dancin' 05 Larraine Johnson / The More I Get, The More I Get 06 Uptown Funk Empire / You’ve Got to Have Freedom 07 SPARKLE / Disco Madness 08 The Far Out Monster Disco Orchestra / Mystery 09 Jackie Moore / Holding Back (Moplen Remix) 10 Will Sessions & AMP Fiddler / REMINISCIN' ***hitch*** 01 山田邦子 / 邦子のかわい子ぶりっ子(バスガイド篇) 02 小泉今日子 / 夏のタイムマシーン 03 安田成美 / 風の谷のナウシカ 04 西城秀樹 / 抱きしめてジルバ 05 梅宮辰夫 / 夜は俺のもの 06 野口五郎 / グッドラック 07 AMAZONS / I LOVE JAPAN 08 C-C-B / ないものねだりの I Want You 09 Hi-Fi Set / ファッショナブル・ラヴァー 10 加茂晴美 / ときめきトゥナイト 11 敏いとうとハッピー&ブルー / 銀座八丁光のまつり 12 少年隊 / ABC 13 イモ欽トリオ / 失恋レッスン(A・B・C) 14 YELLOW MAGIC ORCHESTRA / 君に、胸キュン。 15 沖田浩之 / E気持 16 ビートたけし / 抱いた腰がチャチャチャ 17 野口五郎 / 女になって出直せよ 18 羽賀研二 / ネバーエンディング・ストーリーのテーマ 19 佐良直美 / 二十一世紀音頭 ***ライヴ:Jam Butter Streams (Hotatex and Nof)*** 01 karma/Georges 02 shooting moment/Jam Batter Streams 03 echo light wave/Jam Batter Streams 04 Gypsy Woman/Creastel Waters-JBS cover 05 I Know you,I Live you/Chaka Khan-JBS cover 06 Rendezvous/Zeitgeist Freedom Energy Exchange ***森山弟*** 01 Life on Earth / Life on Earth 02 Kara Grainger / Little Pack of Lies 03 Fantastic Negrito / Scary Woman 04 Jennifer Nettles / Know You Wanna Know 05 Dolly Parton / Twelfth of Never 06 八代亜紀 / ワーク・ソング 07 Eddie Warner / Titus 08 野宮真貴 / 或る日突然 - Gainsbourg Version - ***森山兄*** 01 ハイ・ファイ・セット / いつかスターに 02 Master Design / Let Me Sow Love 03 吳佩慈(ペース・ウー) / Candyman 04 尾崎亜美 / ストップモーション 05 Lily & Madeleine / Can't Help The Way I Feel 06 Crew Cuts / My Blue Heaven 07 Bobby Day / Ain't Gonna Cry No More 08 Honeytree / Making Melodies In My Heart 09 Lily Henley / Avoles Yoran Por Luvya 10 Artie Traum / Life On Earth 11 黛敏郎 / 蛍の光 ☆コメント 01 日本のコーラス・グループ。『ザ・ダイアリー』(1980年)より。なんかの洋楽のカヴァーだと思います。(YouTube) 02 去年の秋に行ったロサンジェルスのザ・ラスト・ブックストアは、$1、$2のコーナーでぼろぼろ掘り出し物が見つかる素晴らしい店。ここに行くためだけに飛行機に乗っても元が取れる(言い過ぎ)。そこで買ったのがこの宗教コーラス・グループのアルバム『We're His Church』(1975年)。ソフト・ロックとか好きな人にも大いにアピールする最高のクウォリティなのに、日本のレコ屋のサイトなどで紹介されている形跡が一切ない。サブスクはもちろん、YouTubeなどでも試聴できない。見かけたら買いましょう。(Discogs) 03 台湾の歌手。『オール・マイ・ペース』(1998年)より。この曲はカヒミ・カリィのカヴァー(作曲:小山田圭吾)。アルバムではマイ・リトル・ラヴァーや岡本真夜のカヴァーもやってる。(YouTube) 04 同名アルバム(1978年)より。尾崎亜美は安レコ・シティポップの女王ですね。(YouTube) 05 インディアナポリスの姉妹デュオ。『カンタベリー・ガールズ』(2019年)より。(YouTube) 06 カナダのドゥワップ・グループ。『サプライズ・パッケージ』(1958年)より。たしか渋谷のタワレコで300円。(YouTube) 07 この人はたしかオリジナル・アルバムは1枚しか残してなかった気がする。これはベスト盤より。たぶんアルバム未収録のシングル曲。(YouTube) 08 「クリスチャン・ミュージック界のキャロル・キング」。『ザ・メロディーズ・イン・ミー』(1978年)より。(YouTube) 09 アパラチアあたりのフォークっぽい音楽をカタルーニャ語(?)で歌っている。たぶんアメリカで活動している人だと思います。『Oras Dezaoradas』(2022年)より。(YouTube) 10 お兄さんのハッピー・トラウムとのデュオでおなじみのSSWの初ソロ作(1977年)のタイトル曲。(YouTube) 11 いつものクロージング・ナムバー。 ***おまけCD『Hopes, Wishes & Prayers』曲目*** 01 Scudelia Electro / My pray 02 Blue Magic / Answer To My Prayer 03 Lionel Hampton / I Wish It Was Me 04 Silk / Answer My Prayer 05 Nicole Willis & The Soul Investigators / Vulture's Prayer 06 Cal Tjader / I Say A Little Prayer 07 鈴木さえ子 / I Wish It Could Be Christmas Everyday 08 Guy Van Duser & Billy Novick / I Wish I Were Twins 09 The Milk Carton Kids / High Hopes 10 The Little Willies / I Worship You 11 Emily Scott Robinson / Lost Woman's Prayer 12 Roy Clark / A Maiden's Prayer 13 Ry Cooder / Comin' In On A Wing And A Prayer 14 Chas 'N' Dave / Wish I Could Write A Love Song 15 斉藤由貴&来生たかお / ORACIÓN -祈り- 16 Emilíana Torrini / Beggar's Prayer 17 中山ラビ / 祈り 18 Lisa Hannigan / Prayer For The Dying 19 矢野顕子 / PRAYER 20 Nina Simone / I Wish I Knew How It Would Feel To Be Free 21 Charlie Haden & Hank Jones / Sweet Hour Of Prayer ☆年始なのでさまざまな願いや祈りに関する曲を集めました。 #
by soundofmusic
| 2024-01-26 23:33
■
2024年01月13日(土)18時~22時 □ 渋谷エッジエンド (03-5458-6385) 地図。 ■ 1000円(1ドリンク&おみやげ付き)←値上げしました □ DJ: hitch sabu 森山弟(弟) 森山兄(兄) ・hitch(写真1段目) 1996年よりイベントオーガナイズとともに音楽活動を開始。ACID文化祭「treppe」および「EGURI」を主催。これまで、The Haters、Felix Kubin、His Name Is Alive、Solid Eye、Chapterhouse、Ulrich Schnauss、Andreas Dorauをはじめとした来日公演をサポート。ドイツ人音楽家Markus Schroederとのノイズユニット「愛してるぜ鯉売店」のメンバーであるかたわら、フードパフォーマンスユニット「XTC食堂」のバイトリーダーとしてもやんわり活動中。 ・sabu(写真2段目) 先輩の誘いを機に、数々のイベント体験を経験し、浅草・神田を主にDJキャリアをスタート。Soulful Houseから最新トラックまで、時代の波を捉えた選曲を志している。2019年に祖母の出身地であるインドネシアの首都、ジャカルタへ移住。コロナ禍も現地の音楽シーンに没頭し、インスピレーションを受ける。農作業を手伝いつつDJ Barなどで活動中。 ■ ライヴ: Jam Butter Streams (Hotatex and Nof)(写真3段目) トラックメイカーでDJのHotatexとDJで時折フルート 演奏もするNof 、以前から不定期にセッションを繰り返してきた2人が新ユニットで再始動! 既存からオリジナルまで、ハウスを主軸にSoul, Jazz, エレクトロなど様々なジャンルの要素を縦横無尽に駆け抜けるjam session要素が散りばめられたfreestyleをお見逃しなく! □ 全世界的に森山兄の生誕50周年記念のアニヴァーサリー・イヤーである2023年がまもなく終わりを告げようとしています。そろそろ鬼にも怒られまいということで来年のPPFNPのご案内です。1月は森山兄の誕生月でもありますので引き続きお祝いムードでご来場ください。このあいだふと、そういえば最近誰からもお年玉をもらっていないなとイヤなことに気付いてしまいましたが、そういうことは忘れて2024年も楽しい音楽をお届けしたいと思います。 今回もまた、DJ、ライヴとも、強力なみなさんをお招きしています。どうぞご期待ください。 なお、いままでの弊イヴェントのセットリストはこんな感じです。どうぞご参考になさってくださいませ。 (Visual by Hotwaxx) #
by soundofmusic
| 2023-12-09 10:48
| PPFNPイヴェント情報
***森山兄***
01 Don Elliott / Seven Come Eleven 02 Joe "Fingers" Carr / Baby Face 03 Shango / Mescalito 04 Van Dyke Parks / Another Dream 05 Laso / I'll Do For You Anything You Want Me To 06 Kirsty MacColl / My Affair 07 9m88 / Aim High 08 Hyldon / Eu Gostaria De Saber ☆コメント 01 ジャズ系のマルチ・プレイヤー。『リジュヴィネイション』より。(試聴) 02 別名(本名?)ルー・ブッシュとしても知られるラグタイム・ピアニスト。『フィンガーズ・アンド・ザ・フラッパー』より。(試聴) 03 ソフト・ロック・グループ、ザ・パレードの元メンバーだったジェリー・リオペルがプロデュースしたグループ。『シャンゴ』より。(YouTube) 04 スティールパンものつながり。『クラング・オヴ・ザ・ヤンキー・リーパー』より。(YouTube) 05 ジョー・バターンが立ち上げたディスコ・グループ(?)。『ラソ』より。本当は別の曲をかけるつもりだったのに間違えてこっちをかけてしまいました。(YouTube) 06 80~90年代の英国を代表する歌姫だとわたしは思っています。『エレクトリック・ランドレディ』より。短めのシングル・ヴァージョン。(YouTube) 07 今月来日した現代台湾のR&B歌手。『平庸之上』より。(YouTube) 08 2023年を代表する偉業とも言える再発シリーズ「ブラジル音楽の秘宝」の1枚。『ノッサ・イストリア・ヂ・アモール』より。(YouTube) ***森山弟*** 01 März / The River 02 Blik Bassy / KIKI 03 Kenny Rankin / Blackbird 04 Jazztronik feat. Sandii / Midnight At The Oasis 05 Punch Brothers / Any Old Time 06 The G/9 Group / Lady Madonna 07 Susan Tedeschi / Don't Think Twice, It's All Right 08 Rolling Stones / Like A Rolling Stone 09 Mountain Mocha Kilimanjaro / Immigrant Song ***N.Y.Cジュン*** 01 Moving On And Getting Over / John Mayer 02 Clueless / Marias 03 Sexual Healing / Marvin Gay 04 Risin' To The Top / Keni Burke 05 Heartbreak Hotel /Jacksons 06 Never Give You Up / Thelma Houston 07 Groovin' / Dj "s" 08 Life (Natural Mix) / Vibrazioni Productions 09 Funkin' For Jamaica (Shinichi Osawa Mix) / Towa Tei 10 Raise Your Hand Together / コーネリアス 11 Mirror Balls / Date Course Pentagon Royal Garden ***しろいゆり*** 01 TRATTORIA / CORNERIUS 02 EXOTIC LOLLIPOP / lollipop sonic 03 lait au miel / oh! penelope 04 pense a moi / france gall 05 LE CHATEAU / ginger root 06 サンバでも踊ろう / 中原めいこ 07 waltz #1 / Elliot Smith 08 心配症 / klan aileen 09 幽霊節奏 PHANTOM RHYTHM REMIXED / GONG GONG GONG(工工工) 10 Zerzura /زرزورة / parviz 11 偽りのシンパシー feat.アイナ・ジ・エンド / MONDO GROSSO 12 空洞です / HIROSHI Ⅱ HIROSHI feat.小泉今日子 ***ライヴ:yumeden*** 01 Water 02 Voodoo Step 03 Cotton Candy 04 Black Satin(Miles Davis cover) 05 Slow Skip 06 Iron Ruins 07 Diamond Base 08 Misaligned Soul ***森山弟*** 01 DE DE MOUSE / Tong Poo 02 Club Des Belugas / Iko Iko 03 南正人 / ブギ 04 中山うり / 生活の柄 05 小坂忠 / しらけちまうぜ 06 Michelle White / Anyway The Wind Blows 07 Lee Anne Womack / I'll Think Of A Reason Later 08 Cloudberry Jam / My Ever Changing Moods ***森山兄*** 01 Silvio Cesar / A Festa 02 Edu Passeto & Gui Tavares / Profome 03 中西レモン / 津軽甚句 04 越路吹雪 / 東雲節(ストライキ節) 05 サーカス / プティ・デジョネ 06 The Golddiggers / Something Special 07 Mason Williams / Come To Me 08 平山三紀 / サンタモニカ・マッチョマン 09 Dom Salvador / Be By My Side 10 John Keating / The Preacher 11 黛敏郎 / 蛍の光 ☆コメント 01 これも「ブラジル音楽の秘宝」シリーズ。ガヤ入りのライトなディスコ。『ソン・エ・パラヴラス』より。(YouTube) 02 ミナスものの自主製作盤が発掘されて大評判を呼んだ系。『ノイチ・キ・ブリンコウ・ヂ・ルア』より。これ、そんな売れたとも思えないのによく中古CD見かけます。買ったほうがいい。(試聴) 03 日本民謡+東欧風コーラス。『ひなのいえづと』より。(YouTube) 04 シャンソン風のアレンジで歌われる俗謡。これはもう15年くらい前になるか、azさんがDJでかけていて知ってぶっ飛んだ。『コーちゃんのお座敷うた』より。CDがとんでもない値段になってる。(YouTube) 05 サーカスのレコードは(たぶん今後も当分)安く買える良質なシティポップ。『フォー・シーズンズ・トゥ・ラブ』より。作・編曲は林哲司。(YouTube) 06 「ディーン・マーティン・ショウ」の番組のグループだとか。『トゥデイ!』より。(試聴) 07 メイソン・ウィリアムズのレコードはアメリカだとフォークとかカントリーのコーナーにありましたけど、スタックリッジを「田舎のビートルズ」と呼ぶみたいなニュアンスで、「田舎のバカラック」と呼びたい。『ミュージック』より。(YouTube) 08 たしか全曲が筒美京平=橋本淳コンビによる、『魅嬉環劉嬲 ミキ・ワールド』より。たしかロサンジェルス録音。試聴は見つかりませんでした。 09 「ブラジル音楽の秘宝」シリーズ。『ドン・サルヴァドール』より。オリジナルはバーバラ・アクリン。こっちのほうがかっこいい。(YouTube) 10 英国のバンドリーダー。『キーティング……ストレイト・アヘッド』より。(YouTube) 11 いつものクロージング・ナムバー。 ***おまけCD『A Sound Mind In A Sound Body』曲目*** 01 ハリー・ホソノ&ザ・ワールド・シャイネス / SPORTS MEN 02 First Aid Kit / Ready To Run 03 オリジナル・ラヴ / ブギー4回戦ボーイ 04 Silk Sonic / Skate 05 The Bamboos / Nightsport 06 ナイアガラCMスターズ / Marui Sports 07 Queen / Bicycle Race 08 矢野顕子 / 行け柳田 09 Jimmy Smith / Judo Mambo 10 Camera Obscura / Swimming Pool 11 The Innocence Mission / When Mac Was Swimming 12 DoF / Explosions Over Baseball Fields 13 Tiny Ruins / Olympic Girls 14 松任谷由実 / 真冬のサーファー 15 A.S.A.P. / NO SIDE (Game's Over) 16 Michael Franks / Baseball 17 Water Into Wine Band / Hill Climbing For Beginners 18 Vashti Bunyan / Jog Along Bees 19 Jerry Douglas Feat. Mumford & Sons & Paul Simon / The Boxer 20 Vetiver / Swimming Song ☆スポーツの秋にちなんで、スポーツっぽい曲を集めました。 #
by soundofmusic
| 2023-10-28 23:57
| PPFNPセットリスト
朝の飛行機でソルト・レイク・シティからロサンジェルスへ。都会だからあまり下調べしなくてもなんとかなるだろう、とタカをくくっていたら、いきなり、空港から最寄りの鉄道駅、エヴィエイションまでの無料のシャトルバスの乗り方がわからない。うろうろしてみてもわからないままなので、空港係員に質問。ここを渡った向こうの、紫の柱のところだよと言われて、行って待っていたがどうも様子が違う。ピンク色の別の柱のところにそれらしいものがやってきたので乗り込むと、あとから次々に乗ってきてすし詰め状態になる。発車を待つバスの車内で聞いた会話。「ウーバー頼んだら1マイルなのに$55もかかってさ」「Welcome to L.A.!」。これ、洋画の吹き替えだったらちょっとキザな感じでそのまま「L.A.へようこそ!」でいいけど、それ以外の文脈だったらどんなふうに日本語に移植するのがいいかな、と考えてみる。
アメリカに来て以来、こんなに人と人が密着する環境は初めてだ。ついでに書いておくと、マスクをしているのは体感で10人にひとり。まあ、いまの東京もそんな感じか。密になるシチュエイションがほぼないのでそれほど不安感はない。店員の人たちはどうしていたっけ。もう思い出せない。 エヴィエイション駅からメトロのC線。電車に乗るためには、いきなり切符を買うことはできなくて、まずtapと呼ばれるプラスチックのカード($2)を買い、そこに運賃をチャージする。そこまでは調べておいた。で、まず1回分の$1.75をチャージ。3駅目のヴァーモント/アシンズで下車し、外に出たところで、もうちょっとtapにチャージしておくかと券売機に行ったところ、いったいどうすれば正解なのかまったくわからない。説明書きを何度も読んで、1日の利用が$5(3回目)を超えるとそれ以上は引かれない定額制であると判断し、3日分の$15をチャージ。それで正しかったようだ。 北へ向かうバスに乗り、とりあえず落ち着いてまわりを見渡してみる。車内にはスマートフォンから大音量でスペイン語のポップスを流す男や、孫にヴィデオ通話している黒人女。窓の外の建物は明るい土色にオレンジや青のペイントが目立つ。空は澄み切って、冗談みたいな水色。シティポップのジャケでよく見かけるような背の高い椰子の木がそこら中にあることを除けば、第一印象は、こりゃ半分メヒコだな、だった。電柱の広告「WE BUY HOUSES CASH」をHORSESと読み間違い、さすがはアメリカ、西部開拓時代の名残のようなそんな商売がまだあるのか、と勘違いする。 14時近く、コリアタウンの南側の宿に着く。最寄り駅はない。バスという思想を基本的に信用していないので、泊まるところはどんな場合でも駅から歩けるところがいい。でもロサンジェルスでは、まともな値段ではそれは実現できない。バスを乗りこなせばいろんなところに行けはするので、必ずしも日本のやり方に固執して駅近にこだわる必要はない。これも行ってみないとわからなかったこと。 チェック・イン時間の前なので、荷物だけ置いて、さらに北向きのバスに乗り、コリアタウンへ向かう。車窓から見える沿道の店の看板のスペイン語が、空のカリフォルニア色はそのままにハングルへとシームレスに移り変わっていくのに興奮させられる。そして都市の構成要素の密度が、今回これまで訪ねた街とは段違いであるとわかってくる。つまり初めて都会に来たわけだ。A地点からB地点へ、歩いて移動することが可能で、かつそれをしても不自然ではないのがありがたい。 歩いて宿に戻りながら、数軒のスーパーと100均を覗く。ロサンジェルスはさぞ物価が高いのだろうと覚悟していたら、品揃えが豊富なせいか、かえって安く買えるものも多い。肉や野菜など、ヘタすると日本の値段よりも安かったりもする。中長期滞在するのであれば、スーパーで買ってきた肉を家で焼いて食うのがいちばん安上がりなのではと思えた。小ぶりのカリフォルニア・ロール10個パック$6を買って、そこらに座って食べる。25年くらい前、気まぐれを起こしてロンドンのスーパーで買ったスシのパックに深く失望して以来、海外で日本食を口にすることは原則としてしていない(ヴェトナム、ホーチミンで連れて行ってもらった和食屋の天ぷらはうまかったなあ)。これは普通に食べられる。 なんとか生きていけそうな予感を胸に、宿にチェック・インし、ひと休み。バスで今度は東へ、ダウンタウンのエイス・ホテルに向かう。ここは1927年にできたスペイン・ゴシック様式の建物で、いまはその名のとおり、ホテルになっていて、もともと映画館だった2200席超の劇場部分はコンサートなどに使われている。ここでウィルコを見る。 まず入口の荷物チェックで、水(いつもの水道水)のポット・ボトルを見とがめられる。開封済みのペット・ボトルは持ち込み不可とのことで、破棄するようにと。わかった、水飲んじゃうよ、と言うと、路上の警備のスタッフが、水捨ててやるよ、と手を伸ばしてくる。「ボトルはいるのか?」「うん、返して」とのやり取りをして見ていると、彼はペット・ボトルの中身を排水口に流したあと、路上にキャップを投げ捨て、それを遠くに蹴り飛ばした。そしてニコニコしながら、空になったボトルだけを返してくれた。 ライヴ、劇場の雰囲気とあいまって、ザ・バンド(の「ラスト・ワルツ」)のことを考えたりしていた。歴史的に見て、60~70年代よりもロック・バンドの平均寿命は長くなっているんじゃないかと思うんだけど、それにしても、『ヤンキー・ホテル・フォックストロット』から考えても20年以上、長く休むわけでもなく創造力のピークをずっと保っているのは驚異的というしかない。ネルス・クライン(ギター)とグレン・コッチェ(ドラムス)がバンドの華なのだなとわかる。痙攣したようなエレキを聴かせた次の曲で、泣かせるスチール・ギターを奏でる振れ幅。検索バーにクラインの名前を入れ、スペースキーを押すと「身長」と候補語が出てきてちょっと笑った。曲によっては客の合唱になる。なるほど、こういう感じなのね。 翌日。バスで北に30分、ハリウッドへ。ハリウッド・ブールヴァードの1本北、フランクリン・アヴェニューでバスを降り、カフェでコーヒーとクロワッサンをテイク・アウトしてそこらへんのベンチで食べる。国道101号線、ハリウッド・フリーウェイの高架下には、路上生活者のテントがいくつも並んでいる。キャピトル・レコーズの本社のビルがすぐ向こうに見えるような、いわば一等地のそばに広がるそんな光景にくらくらする。だいぶ前に読んだ、ロサンジェルスの気候はホームレスにはやさしい、みたいな話を思い出す。たしかに雨は少ないし、冬でも凍死する危険性はあまりないだろうとは思うけど。 ハリウッド・ブールヴァードの歩道には星型のプレートが埋め込まれていて、それぞれに俳優や映画監督、音楽家などの名前が刻まれている。いわゆるウォーク・オヴ・フェイム。歩きながら下に目をやると、なるほどわたしなどでも知っているような有名人の名前が見つかりはする。だからなに、と思いながら歩いていて、それでも自分の気分がすっかり観光客になっていることに気付く。気を取り直してレコード・モードに戻る。 メトロのハリウッド/ヴァイン駅近く、アメーバ・ミュージックへ。巨大店舗。2012年の訪米の際、サンフランシスコとバークリーの店舗には行ったことがあって、たくさん買い物をした記憶があるし、ディスクユニオンでもよくここの値札のついた中古のアナログ盤を見かける。勇んで突入すると、昼前の時間なのに大賑わい。いいぞいいぞと思いながら見始めると、メインは新品のアナログで、期待していたような大量の中古盤で窒息するような店、ではないのだった。30分もしないで出てきてしまった。 そこから歩いて某店へ。12時開店とあるところ、時間が過ぎても入口のパティオ風の門は閉まったまま。よそを先に回ってから戻ってくる余裕はないので、いま見ておきたい。電話すると「近くまで来てるから、駐車したら行けると思う」。そこらをぶらぶらして時間をつぶしているうちに、電話がかかってきた。「いま開けたよ」。ありがたい。こういうとき、すぐに出向いて、あ、さっきの電話の客だなと思われるのは恥ずかしい。まあ店は気にしてないだろうけど。小ぶりな店に入ると、入口のレジのところにいる奥さんが、「彼に言ってくれたらうーんと値下げするから!」と奥の部屋にいる店主を指す。 そのときは言っている意味がよくつかめない。見始めると、$10以下のレコードなんて1枚も置いていないとわかってくる。それでも意地汚く、奥の部屋へと見進めていく。アラン・トゥーサン『モーション』を引き抜いて戻したところで声をかけられる。「いま抜いたのは誰の?」。もう一度引き出してチラリと見せると、「うん、なかなかレアだよね」。そんなわけないのだ。たしか$30だか$40だかの値段がついていた。 今日は何を買ったのか、と訊かれ、朝一で寄った店で買ったレコードを見せると、中袋が付いていないのを見て取り、入れてくれようとする。いやいやそんなことまでしてくれなくていいから、とレコードを取り返し、鞄にしまう。なんなんだろう、この店は。「日本のディスクユニオンからもよく仕入れに来る」って言ってたけど絶対ウソだと思うし、値下げするって何度も言ってたのも、だったら最初から下げておけ、としか思えない。親切の方向性が間違っている。とはいえ、電話してせかしたひけめもあるし、想定よりちょっと高いな、くらいだったら申し訳なさで1枚くらい買ってしまったかもしれない。ロサンジェルスにまた来るとしても、ここはもう二度と来ない。 メトロE線のソトへ。ボイル・ハイツと呼ばれるこのあたりは、100年前は日本人がまとまって住んでいた地区で、いまはチカーノ・コミュニティになっている。駅の近くの、地元の人しか来なさそうな食堂へ。英語が聞こえない。タコス2個セットと缶のセヴン・アップを注文。生地のやわらかさ、チキンの焼き加減、パクチーの香り、自分で絞るライムの清涼感。素晴らしかった。タコスのうまさとはこういうものなのかと目を開かれた。 ここに来たのは、ソニド・デル・バレ(Sonido Del Valle)のため。アメリカに来て以来、どの街のレコ屋でもラテンのレコードは日本よりよく見かけていた。ロサンジェルスにはラテンに強い店が絶対にあるはず、と調べてみてここがヒットした。ソウルやロックもあるが、ラテンの量はさすがで、そして仕切り板の分類も細かい。当たり前だけど大半は知らないものばかり。気になったものを適当につまんで試聴していく。それだけのことで結論を出すわけにはいかないとはいえ、内心いだいていた、過剰なセンティミエントがダダ漏れの歌謡曲がラテン音楽の本質なのだろう、との推論は強化された。2枚だけ買って、宿に戻る。 旅の前、シカゴのヴァンさんに旅程を伝えて、面白そうな店があったら教えて、と質問していた。どの街も行ったことないから心当たりないけど、ロサンジェルスには友達いるから紹介するよ、と紹介してくれたのがCさん。車で拾いに来てくれた彼と落ち合い、なんか希望あるか、と訊かれ、「ベタだけど、グリフィス天文台!」とリクエスト。なぜか、どうせ夜はバス便なんてないんだろうから車でしか行けない、と思い込んでいた。いま調べたら普通にあったけど。 グリフィス天文台と聞いてピンと来ない人でも、写真を見たらあああれかと思うに違いない。1週間に3回くらい、別々の映画でここが出てきたのを見たこともある。便利のいい場所の駐車場は満車、天文台からはだいぶ離れた路肩の駐車コーナー(一応有料、でも駐車券の券売機が故障していて結局無料で止めた)に止めて、街灯のない道路を歩いて登る。天文台に近づくと人が増えてくる。聞くともなく耳を傾けていると、いろいろな言語でのおしゃべりが飛び込んでくる。英語、スペイン語はもちろん、仏・独・中・韓、判別できたのはそのくらいだけどもっとあった。 すばらしくだだっ広い、平坦な夜景。高層ビルは、ダウンタウンの中心部にいくつかまとまってあるくらい。地図を見ているとロサンジェルスはあまりに茫漠と広がりすぎていてとらえどころがない。Cさん曰くここは、それぞれに違った特徴を持った大小の都市の集合体なのだ、と。 山を下りて、ダウンタウンのチキンとドーナツの店に寄ってから宿まで送ってもらう。ダウンタウンの中心部のすぐ近くなのに、23時くらいで街灯もなく真っ暗な場所があり、この暗さは東京ではありえないなと思う。「まあでも危なくはないよ。危なかったら人は歩いてないでしょ」。そして、なんの話の拍子だったか、「どんな国にも問題はあるからね」と言うので、「アメリカのいちばんの問題はなんだと思う?」と訊いてみた。「メンタル・ヘルスかな」「若い人の?」「年齢にかからわず。2005年だかに、精神病院が一斉に閉鎖になって、それでホームレスになってしまった人たちがたくさんいる」「銃はどう?」「銃はそれ自体で発砲するわけじゃないから、人間の問題。日本にも日本刀たくさんあるけど、別に事件は起きてないでしょ」 翌日。朝、A線のヴァーノン駅からサウス・セントラル・アヴェニューのほうに歩いていると、まずドラムの音が聞こえてくる。近付くにつれ、それが教会から聞こえてくる生演奏だとわかる。スペイン語の歌。さすがにあまり近付くのははばかられ、敷地の外で少しのあいだ立ち止まっていると、入口のところにいた牧師? 神父? がこちらに来て声をかける。入らないかと。いや、音楽はいいと思うけど、ノ・エンティエンド・エスパニョールだから……と言うと、「大丈夫、God bless you.」と肩を叩かれた。いままで生きてきて、そう言われたことがあったかどうか、思い出せない。そして、プロテスタントの国にいるラティーノ、チカーノたちが信仰するのはカトリックなのかプロテスタントなのか、そんな知識も持ち合わせていないし、考えたこともなかったなと初めて気付いた。 リトル・トーキョーの全米日系人博物館を見学。$16。数年前から海外への日本人移民の歴史や現象に興味を持ち始めていて、断片的な知識をあれこれ仕入れてはいたものの、知っている話題の辿り直しも含めてめちゃくちゃ勉強になるし、感情を揺さぶられる。施設名が示すとおり、ここで語られているのは「日系アメリカ人」の歴史であって、アメリカ人になろうとして、なった人たちの物語なのだと、そうわたしは理解した。ここ10日ほど、いくつかの街で移民らしき人を山ほど見てきた。しかし「移民らしき人」とはなにを基準に判断しているのだろう。ラティーノや黒人で、英語が相対的にうまくない人? その判断は保留にするとして、アメリカ人とは、アメリカ人になろうとしている人たちのことなのではないか、なんて定義を思いついたりもした。 そういえばロサンジェルス滞在中に、電車で高校生くらいのカップルを見た。ふたりとも顔は東アジア系と思われた。つまりわたしやあなたの中に混ざっていても、外見だけではガイジンとはわからない、そんな顔。彼らの英語での会話は、イントネイション、発音とも、少なくともわたしには、後天的に習得したものには聞こえなかった。目をつぶって聞いていたら、人種を特定することはできなかったと思う。もちろん、人種や国籍や名前と、その人が話す言語のアクセントとの関連には論理的な必然性はないけど、話している当人の名前が画面に表示されているのを見ながら英語で会話をすることが仕事に含まれている生活を送っているので、インド人っぽい名前の人と西洋人っぽい名前の人の英語の違いには必然性がなくはない、というのが日々の実感。いや、もしかしたら逆で、実は見えている名前を隠したら、それがどこ系の人のアクセントかなんてわからないのかもしれないけど。ともかく、彼らの口から出てわたしの耳に入る言葉がアメリカ的であるということは、その言葉を発する身体の動かし方、相手への接近の仕方、反応の様子、すべて完全にアメリカ式標準にのっとっているということ。彼らは二世か三世か、とにかく何代かが経過すると、アメリカ人になるし、なれるし、なってしまうのだ。 さて、ここがアメリカ人になろうとした日本人たちを検証/顕彰する施設である以上、いちばん大きなトピックは戦時中の転住/強制収容。それに対する補償が実現するまで戦後数十年もかかったのは、一世や二世たちにとっては、自分が受けた体験のつらさとアメリカ市民としてのひけめが複雑に絡み合っていて声を上げづらかったから。戦時中には幼かった、あるいはまだ生まれていなかった、三世や四世たちが成長して声を上げるまでの時間が必要だったのだ。 そして、聞きかじっていた転住/強制収容の話も、現実は軽々と想像を超えてくるのだった。ロサンジェルス生まれのスペイン/アイルランド系のラルフ・ラソ君(1924年生まれ)は、友達の日系人が強制収容されると聞いて義憤にかられ、日系人と偽って自分もキャンプに入ったのだという。「なぜ収容所に行ったのか? 君は行く必要はなかっただろうに」と問われると、「誰にとっても、行く必要なんてあるべきじゃなかったんだよ」と答えていたのだとか。 転住/強制収容について、アメリカ市民に対する扱いとして不当であると主張して日系人が起こした裁判が4件あった。どれもきちんと弁護士が付いて裁判がおこなわれている。この訴えをアメリカの理想を守るための愛国心の発露として支持する「アメリカ人」たちが一定数いた、ということだ。 大多数の二世たちは、ほかの形で愛国心を示していた。日系人兵士を中心に編成され、ヨーロッパ戦線でめざましい成果を挙げた第442連隊は有名で、彼らの活躍があったのとなかったのとでは、戦後のアメリカ社会における日系人の地位はまったく違っていただろう。 そして、これはあとで思い出したことだけど、もちろん日本に来た日系人兵士もいるのだ。沖縄のひめゆり平和祈念資料館に行ったとき、たしか常設展示ではなく企画展示だったか、海を渡ったその後のひめゆり、みたいなコーナーがあった。戦後生き残った元ひめゆり学徒たちのうち少なからぬ数の女性たちが、アメリカがつくった学校に通って教員になり、また、日系人米兵と出会って結婚し、ハワイや米本土に移住したのだという。もちろん、あるひとりの沖縄女性がさまざまな事情によって結婚する相手はあくまでひとりの男であって、「アメリカ」という抽象的な概念と結ばれるわけではない。また、当時の沖縄であれば、親戚・知人・近所の顔なじみなどの中に、移民して行った人や帰沖した人を探すことは難しくなっただろうから、いまわたし(たち)が考えるほどには抵抗感はなかったのかもしれない。それでも、こういう現実もまた、わたしの貧弱な想像力の範疇を超える出来事だった。 キャプション、なんとなく日英併記なのだろうと予想していたものの、ところどころ日本語訳がつくくらいで、基本的には英語のみ。それを不便だと感じることはあまりないのだけど、至るところに掲示されているさまざまな有名人・無名人の発言の引用には、一世や二世による、短詩の形をしたものが少なからずある。おそらくそれらは、日本語の5・7・5のリズムで発せられたのだろうと推測できて、そして英訳からは日本語へと復元することができない。こればかりは原文の日本語が欲しくなってしまった。 夕方、ジョン・アンソン・フォード・アンフィシアターに着く。小ぶりな日比谷野音という感じの野外劇場。第1回ロサンジェルス・フォーク・フェスティヴァルを見る。昨日・今日の2日間の開催だが、今日だけの参加。この日のおもなアクトはウィリー・ワトソン、ヘイリー・ヘンドリックス、主催者のミルク・カートン・キッズ、ワクサハッチー。ほかにもギター漫談ふうのアクトがあったり、急遽呼ばれたチャーリー・ヒッキーが2曲歌ったり、ジョン・C・ライリーが司会だったりする。基本的にはみんなアコースティック楽器だからなのもあるだろうけど、セット・チェンジにもムダな空き時間がなく、初回開催なら発生してもおかしくないグダグダ感はまるでないスムースな進行。 ヘイリー・ヘンドリックス、普段はポートランドにいてカレッジとかでしかやってないのにこんな晴れがましいところに呼ばれてジョン・C・ライリーに紹介されて出てくるなんて……と、初々しさ満点でかわいらしかった。やはり圧倒的なのはミルク・カートン・キッズで、スピード感、緩急、ハーモニーとも非の打ち所がなく、それでいて過剰なエゴで客にアピールしようとすることもない。音源だけ聴いているとわからないのは、彼らのトークの巧みさ。実演を見るのは2017年以来2度目で、そのときもこの日も(そしてインターネット上の動画を見るとおそらくいつも)ステージ衣装はスーツだ。曲以上にトークが楽しみだったりするのは日本のフォークのある種の伝統だけど(アメリカではどうかは知らない)、彼らの話芸とスーツ姿が、わたしの中で期せずして、日本の漫才師たちの伝統とぴったり重なったのだった。 というわけで、客観的に見ればおおむねいいフェスだったとは思うのだけど、夜になるにつれて山の冷気が容赦なく襲いかかってくる。油断してバート・ヤンシュのTシャツ1枚だけで行ってしまったためどうしても耐えられなくなり、最後のワクサハッチーは座席を離れ、建物の陰にあたる場所で聴いて終演まで過ごした。途中で帰らなかったのは、終演後にならないと出ない、駅までのシャトル・バスを待つため。これもいま考えると、駅まで30分くらいなのだから歩いてしまってもよかった。 次の日、朝暗いうちに宿を出て、ロサンジェルス空港へ。ここは混雑がひどいから3時間前くらいに着かないと乗れない恐れがある、みたいにどこかで読んだ。幸いそんなこともなく、珍しく余裕をもって搭乗ゲート前に到着して待っていると、機体重量の関係で明日の同便に移ってくれるヴォランティアーを探している、とのアナウンス。明日の搭乗は確保され、そのうえ$1000の謝礼が出ると。もし無職期間の旅だったら、躊躇なく応じて、もう1日滞在を延ばすところなのに、と思いながら事の推移を見守る。なかなか志願者が現れないようで、謝礼は$1500、さらに$2000へとレイズされた。ロサンジェルス市外の居住者の場合はホテルも用意されるという。結局〆切られたので、誰かが応募したのだろう。これもいま考えると、別に会社はわたしの休みが1日延びてもなんの損害もないし、謝礼が$2000=30万円! になった時点でこの話に乗るべきだったのだ。旅に出ると、やはり冷静な判断は難しい。 会計。 ・往復航空券(羽田→カンザス・シティ、ロサンジェルス→羽田):102000円 ・宿泊費(11泊):99000円 ・都市間移動の交通費(飛行機、鉄道):55000円 ・食費:34000円 ・レコード(35枚):28000円 その他もろもろ含めて、合計費用は378000円。なんとなく30万円くらいで収まるつもりでいた。円高・物価高もあって計算が狂ったし、とくに贅沢はしていないにもかかわらず、身の丈に合っていないことをしている感覚を心底おぼえた。さすがにもう無理だと思う。来年か再来年、メンフィスとナッシュヴィル、そしてポートランドあたりに行って、アメリカ研修シリーズはいったん修了としたい。 ☆写真 ・コリアタウン。 ・「WE BUY HOUSES CASH」。 ・高架下のホームレスのテント。向こうにキャピトル・レコーズのビルが見える。 ・アメーバ店内。 ・タコス。 ・ロサンジェルスっぽい風景は至るところにある。わたしたちの持っているステレオタイプのイメージは、ほぼ正しい。 ・リトル・トーキョーで見かけた「平成ナイツ」の告知。 ・ダウンタウン、ザ・ラスト・ブックストアの店内。ここの$0.99、$1.99コーナーは宝の山だった(少なくともわたしが行った日は)。 ・ランブリン・ジャック・エレオット(92歳)のライヴ告知。 ☆その他の研修 その0~その1:出発まで~ミズーリ州カンザス・シティ その2:コロラド州デンヴァー その3:カリフォルニア・ゼファー号 その4:ユタ州ソルト・レイク・シティ #
by soundofmusic
| 2023-10-19 07:47
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