わたしが生まれ育った家は、両親が新しい家を建ててそちらに移ってからというもの数年のあいだ野ざらしになっていて、いまは取り壊されてしまっているけれども、とにかくその家が東武線の駅からほど近いところにあったので、上京するときは東武電車(と呼んでいた)を使うことが多く、それに乗って終点の浅草まで行ったり、あるいは北千住から地下鉄に乗り換えたり、したものだった。だからわたしには、上野駅にまつわる郷愁とかはほぼないけれど、浅草には、若干ある。
そのひとつが、このたび建物が何だとかに指定された神谷バーで、東武電車の中にはこのバーの広告が常に出ていたから、「電気ブラン」の名前とともにこの店名も子供の頭にすりこまれていた。しかしもちろん当然、子供がバーに行くわけもなく、長じて自分が東京に住むようになると浅草に行く機会はそうそうなくて、最近では年に2、3回、とりこぼした洋画だとか、珍しい邦画だとかを拾いに六区の映画館に行くくらいのものだった。
そんなわけで先日、浅草に映画を見に行き、ついでに、存在を知って30年目くらいにして初めて、神谷バーに行ってきました。正確にはこの建物、1階がバーで、2階がレストランで、3階がなんだとかになっているのですが、1階が混雑しているげだったので、2階のレストランで飲食してきました。
電気ブランは、ここで出してるのと同じものなのかわからないけど、以前どこかで電気ハイボールかなんかを飲んだことがある。せっかく本場に来たのだから、というわけで、ストレートの電気ブランをいただく。これはわたしには、濃かった。ストレートというよりは原液というか。小さなグラスに入った電気ブランと一緒に、氷水のグラスがついてくる。チェイサーじゃないし、こういうの、なんて言うんだろ。たぶん交互に飲むための水。だから、そうした。2杯目は瓶のギネスを飲んだ。
食事も美味しいし、昭和時代から勤続し続けているようなウェイトレス様がいらっしゃるのも趣き深い。平日はランチもあるので、観光のついでにいかれるのもよろしいかと。なによりも、これみよがしな「古いものを大切に使ってる」感がないところがいいですね。そういう意味ではここはほとんどイギリスに接近している。
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原田芳雄、中村とうようと訃報が続いたもんで、ツイッターを見るのがややしんどかった。インターネット上での発言は全部自己顕示、ってことでいいと思っているし、書き込むひとひとりひとりはそれぞれの内的必然性によって言葉を発するのだろうし、もちろん、それだけの礼を尽くされるに値する仕事をしたひとたちであって、だからこそなおさら、どこか納得いかないものが残る。
誰か有名人がなくなった際、それに触発されてなにかを書くということを、ここ何年かはほぼやめていたけれど、わたしはむしろそういうことが好きなのだ。尻馬に乗ってなにかひとつふたつ、気の利いたことを言ってやろうと思っているのだ。その軽薄さはいま、影をひそめ、沈黙に変わっているけれど、ただしそれは軽薄な沈黙とでも呼ぶべきもので、なにしろわたしはいまも昔も、死者を追悼する気持ちなぞ、ない。死んだ者は元にはかえらない。あとは生きている者の問題であって、生きている者は生きているうちに発言すればいいのだから、今日明日にあわてて思い出を語る必要はない。しかるべきときが来たら、口は自然に開くだろうし、手はキーボードの上で勝手に動き出すだろう。そうなるまで、おとなしくしている。
とかいってたら、クッキーシーンのサイトの伊藤英嗣のブログの
記事を見つけた。彼らしからぬ、というか、彼らしく素直にねじれた、いい文章だと思いました。
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7/9のPPFNPのセットリストが、
完全版になりました。
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来月の「黒の試走車」の
情報をアップしました。ナイスな男子2名をゲストにお迎えします。こぞりまくって遊びに来てください。
*どうでもいいですが、写真は「ワールド・ミュージック」で検索したら出てきたもの。どんな音なんだろ。