DJ眠り猫

d0000025_2031989.jpg「SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」見ました。いいところも悪いところもあったけど、うーん、そう来るかあという重い驚きみたいなものは確実にあった。入江悠監督は、顔を見れば世界に対して不信感みたいなものを抱え続けているひとなんだろうとすぐに分かるわけですが(単に疲れ果てているだけかも)、これはほとんど、ヒップホップの皮をかぶった階級闘争であり、日本映画史の中で似たようなものを探すとするならば、第二次大戦後の左翼映画よりもはるかにさかのぼって、昭和初期の傾向映画のほうに近いのではないかとすら思われる。

ただしどうしても気になってしまうのは、シリーズ1作目で埼玉から東京に出てきた本作の主人公、マイティが、いかにも悪そうなヒップホップ・アクト「極悪鳥」の下働きをしているというオープニング。ライヴの際の物販だとかメンバーのタバコの買い出しだとかをやらされていて、もっと売り上げたらライヴに出してやる、と言われて2年間たっているという設定。あきらかにブラック企業だとかのノリなわけだけど、見ているこっちは、「おいおい、そんなところにいるよりももっと気の合う仲間と音楽やればいいじゃん」と思ってしまうのだ。わたしは。

一事が万事こんな感じで、入江の熱が空回りしているように見えなくもない。極悪鳥とトラブルを起こしたマイティは栃木に逃げてきてそこで新生活を送るわけだけど、恋人は勤めている店で客を取らされ、マイティはマイティで、仕事で関係のある人物が、借金を返せなくなったひとたちやおそらくは東南アジア系の難民を「ドレイゴヤ」(と入口に書いてある!)に押し込めているのを見る。「客を取らされる」って、テン年代の映画で耳にするとは思わなかった。

作り手の思いが強ければ強いほど、それをいかに映像や物語に変換するかに気を配らなくてはいけないのだろうけど、その過程は、往々にして省略されて、結果的に失敗に終わってしまうことがままある。本作もその徹を踏んでいると思う。とはいえ、栃木に逃れてきたマイティが、下っ端のガキに対して暴力を振るう描写は、叩かれる者が叩く者へと容易に転化する様子を的確にとらえていた。ついでに言うと、栃木に来てからのマイティの衣装は明らかに寅さんにヒントを得ていて、いつごろからかなかったことになってきた、初期の寅さんの凶暴性を思い出させてくれた。

そんなこんなであまりのめりこめずに見ていたら、後半、野外フェスの場面でものすごい長回しがあってビビった。その野外フェス自体、インディーズ映画とは思えないほどのスケールの撮影なんだけど、フェスで車に乗り付けるマイティ→ステージ脇のテントで売上を強奪→もみあいつつ屋台をなぎ倒したりしながら逃走→車に乗り込んで発進→ひとしきり走ったところでエンスト→遠くから響いてくるかつての仲間たちの歌声に惹かれて遠くに見えるフェス会場まで走る→ステージ前で極悪鳥のメンバーに見つかってボコられ→やってきた警察に逮捕される、という15分以上のワンカット。当然、マイティと一緒にカメラも車に乗ったりしているわけで、段取りが大変だろうなとも思うわけだけど、とにかく出来てきた映像のパワーに興奮した。ここらあたりから、ラストの、マイティ対イック&トム組の言葉のぶつけあいに至って、ようやく自分としてはとっかかりが見つけられた感じでした。しばらくたったらまた見てみたい。

今回は舞台が栃木ということで、日光出身の設定のヒップホップ・グループ、征夷大将軍というのが出てきた。見猿、言わ猿、聞か猿を模した3MC+DJ眠り猫(笑)という編成。それにしても、シリーズ1作目でSHO-GUNGという名前を聞いたときからの疑問なんですが、2作目の女子ラッパーグループB-hack(「美白」から)しかり、今回の極悪鳥しかり、ネーミング・センスが微妙じゃないでしょうか?

渋谷のシネイクイントで上映中。サイタマノラッパーのシリーズ旧作なんかもやってるようなので、ご覧になってみてはいかがでしょう。
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by soundofmusic | 2012-04-22 20:05 | 日記 | Comments(0)


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