昔のあなたに

d0000025_3511516.jpg既報のとおり、松任谷由実&プロコル・ハルムのコンサートを見てきました。わたしはいままで生のユーミンを見たことがなく、とはいっても象が出たりレーザー光線が舞ったりロケットマンが飛んだりサーカスが展開されたりするという全盛期のステージの話はなんとなく聞いていましたし、また、世代的には、苗場といえばフジロックよりもまずユーミンととんねるずが思い浮かんだりする、まあそういう歳です。

場所は三軒茶屋の、昭和女子大学人見記念講堂。ここはたしか10年以上前になんかのコンサートが当たって来て以来だったかなあ。大きさは渋谷公会堂くらいでしょうか、昭和末期の香りをいまに伝える建物。そこの2階席から見下ろした2時間20分、最初にユーミンが弾き語りで何曲か、続いてユーミンによってメンバーひとりひとりが紹介されて登場したプロコル・ハルムが5曲くらい、次にユーミンが今度はバンドを従えてそれなりに、そして最後にユーミンとプロコル・ハルムがジョイントして、という感じで進んでいきました。

まずはじめに、ステージの奥に設置された楕円形のスクリーンに、ユーミンがプロコル・ハルムのメンバーに書き送った直筆の手紙が映され、ユーミン自身がそれを朗読する声が重なります。13歳のときに彼らの音楽に初めて触れ、ずっと同じステージに立つことを夢見ていたこと。夢を夢のままで終わらせるのも美しいことだけど、それを現実にしてみたいと思ったこと。そんなような文面だった気がします。

緊張なのか劣化なのか、弾き語りのユーミンの声は、あの独特な高音(ロボット・ヴォイス)は望むべくもなく、音程も相当あやしい。本人がやっているのでなければ、許容されえないレヴェルのパフォーマンスだったかもしれません。こういうとき、どうするか。この日うたわれた曲は2曲を除いてすべて結婚前の曲で、わたしはそのすべてを予習としてある程度聴き込んでいましたから(そんなことをしたのはひさしぶり)、割とすぐに脳内補正することが可能でした。また、それらの楽曲は、いちばん新しいものでも、彼女が二十歳そこそこのころに書いたものであることは忘れようったって忘れられるはずもなく、その本人が数十年後、目の前でどうにかこうにかそれをうたっている姿を見たら、冷静でいるのはやはり容易ではない。つまり、本人が本人を演じる、ユーミン・シングズ・ユーミン、それだけでOK。と、ふだんそういうことを思う性質ではあまりないにもかかわらず、そう感じました。

ユーミンはMCで何度も何度も、自分がいかにプロコル・ハルムの音楽に影響を受けてきたか、繰り返し繰り返し語っていました。そこまで言われれば、彼らのことをまったく知らないお客さんも、遠来のバンドを温かく迎えようという気にいくらかはなるもんだと思いますが、実際、どっしりと落ち着いた、基礎体力のあるいいパフォーマンスを見せてくれました。

バンド版のユーミンは、多少緊張もほぐれてきたのでしょう、うたはやや持ち直し、また、キャラメル・ママのように才気あふれるとは言わずとも、達者で器用な演奏に支えられて、のびのびとステージをこなしているように見えました。たしかサックスも入ってノリノリだった「14番目の月」。かなりスカっぽいアレンジになっていたデビュー曲「返事はいらない」の前には、MCで、若いころはなにかと重厚なものに憧れるもので、自分はプロコル・ハルムみたいなことをやりたかったけど、プロデューサーの意向でSSWっぽい路線をとることになった、と話していました。

ユーミンとプロコル・ハルムの合体版は、プロコルの曲をユーミンとゲイリー・ブルッカーがヴォーカル・パートを分け合って数曲を演奏したのち、ブルッカーが英語詞をつけてやはりふたりでうたう「ひこうき雲」「翳りゆく部屋」が続きました。この2曲は、ユーミンいわく、自分の曲の中でいちばんプロコルの影響が濃い、とのことでしたが、彼らのうたと演奏で聴くと、なるほどこのハマり具合はかなりのものでした。

繰り返しになるけど、思春期の危うさを全部吐き出してて、それでいてバランスを崩すでもなくて、こういう曲を書いてしまう女の子っていうのはいったいどんな存在だったんだろう、ユーミン、昔のあなたに会ってみたかったよ! 

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以下は余談です。

○いつもそうなのかこの日だけなのか知りませんが、コンサート中しばしば、深々と頭を下げて、「ありがとうございました!」と言うもので、そこでコンサートが終わりなのかと思ってしまう。

○そういえばプロコル・ハルムのキーボーディストのマシュー・フィッシャーは日本在住のはず、と思って調べてみたら、「青い影」の印税をめぐってメンバーとは仲違いしている様子。そのついでにわかったこと。ベースのマット・ペグは、フェアポート・コンヴェンションとジェスロ・タルでベーシストを務めたデイヴ・ペグの息子。(1月19日追記。日本在住なのは、元モット・ザ・フープルの鍵盤奏者のモーガン・フィッシャーでした。失礼しました)

○日本で、ユーミンと同じくらいプロコル・ハルムに影響を受けているのがムーンライダーズだと思うけど、もしユーミンのデビューが数年遅かったら、彼らがバックを務めたことがありえたかもしれないね。そしたら英国的な翳りが満載の名盤ができたんじゃないだろうか。昔誰かがどこかで、はっぴいえんどはダンスで、ライダーズは文学だ、と書いていたことを思い出したり……。

○ビートニクスのカヴァーでおなじみの「ピルグリムズ・プログレス」は、やってくれなかった。

トム・ウェイツ・ヴァージョンの「翳りゆく部屋」
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by soundofmusic | 2012-12-13 03:53 | 日記 | Comments(1)
Commented by starfield at 2012-12-14 10:49 x
ユーミンは何世代にも影響を与えている方ですよね。
ユーミンを聞くと懐かしくなります。


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