仕事中に、有馬ゆえさんが「おもしろい」って紹介していた「出会いと別れ」をやっていたら、予想外に凹んでしまった。
ココ。 自分が過去に付き合った相手についての情報を入力すると自分の恋愛傾向を診断してくれるとか、そういったいわゆるアレなのだが、なんだろう、別に凹まなくてもよさそうなもんなのに……なにがショックだったって、自分が相手のことをどう思っていたかを具体的に思い出すことがまったくできないのだ。 よりによって、若い身空で、ぼくとつきあっていたようなひとたちだから、大なり小なり頭がおかしかったのではないかと思われるが、それを言うなら、たいていの男にとって、若い女なんてのは大なり小なり頭のおかしな生き物なのであって、さらにいうなら、お互い年をとったからってその関係性がどうにかなるかというとそうでもない気もする。 * * * そんな具合で微妙に鬱々たる気分で、フィルムセンターへ。成瀬巳喜男「浮雲」(55年)を見る。たぶん3回目くらいで、過去の2回はいずれも眠ったはずだが、年とったせいか、今度は楽しく見た。楽しいといっても、やはり気が滅入ってくるのであって、この“気が滅入ってくるのを楽しむ”感覚、成瀬の醍醐味だなあと、いまさらながら、思った。 戦争中に仏印で燃えあがったひと組の男女(森雅之、高峰秀子)の恋。戦争が終って日本で再会すると、やっぱり元のようには戻らない。戻りたいのか、戻りたくないのか、それすら分からないようでありながら、なんだかんだいってずるずる付き合っている。 あんまり若いうちに見てしまうと、恋愛というものに対して幻滅してしまうかもしれない。ひとそれぞれの経験値にもよるだろうけど、30歳前後くらいで見ると、どこかしらすとんと来る部分があるのではないかしらん。 徹底して地を這うような映画ととるひともいるだろうけど、ぼくは、うむ、それでも映画的にだいぶ美化されているな、と思ってしまった。実際に森雅之みたいな男がいるとしたら、だらしなくって目もあてられないだろうし、実在する高峰秀子みたいな女は、男のほうからしたらただ鬱陶しいだけだろう。 蜜月がこってりと描かれていれば、また印象は違っただろうに、成瀬はそれをしない。ふたりが寄りかかっている巨大で強固ななにか、それはたぶん思い出とか呼ばれるものだろうけど、それは観客には示されない。 そのかわりじゃないが、カメラがよく喋る。ふたりをとらえる段になると急に気合いが入り、数歩、歩み寄る。歩み寄られる森と高峰、ことに高峰が、それに存分に応える名演。人間の女の表情はかくも豊かなものであったかと驚く。 それにしても。たとえスクリーンの中からとはいえ、「どうせ誰もいないよりはマシだと思ってつきあってるんでしょ」などと言われた日にゃあ、暗闇の中でドキッとしてしまう。ほんとに、水木洋子の脚本は容赦ないんだからな。しかし、ドキッとする必要なんかない、堂々と、小津の映画に出てくる笠智衆みたいに、全人類を代表して、「ああ、そうだよ、君もそうなんだろ?」と言ってやれ、森雅之! フレー、フレー! * * * 成瀬=水木の容赦のなさは引き続き「驟雨」(56年)でも全開。こちらでは結婚4年目の夫婦(佐野周二と原節子)の倦怠が描かれる。たぶんぼくが初めて見た成瀬映画。6年ぶりくらいの再会だろうか。 ふたりが住むのは梅が丘。50年前、電話はなく、角の薬屋の赤電話を使用。かかってきた電話は薬屋の主人がしらせに来る。家の中には水道はなく、ポンプ式の井戸を使用。そんな暮らしぶりだけど、原節子の悩みは、今の人間のそれとさほどかわらないように見える。子供はなく、野良犬を愛でる。出かける約束をしていたのに、直前になってなんとなく気乗りがしなくて出かけられなくなる(たひらさんみたいだ)。 これもまた、原節子の表情のめまぐるしい移り変わりを楽しむ映画。失礼ながら、こんなに引き出しの多いひとだとは思わなかった。 姪っ子の香川京子が、いかにも若い娘ならではの不満から新婚旅行を打ちきって帰京、夫婦のところにグチを言いに来るのだが、グチを聞いてやるようでいたのがいつのまにか、自分が夫に抱く不平をぶちまけにかかる原節子。まるで代理戦争。このへんの進み行きの見事さには感服。 * * * さて、「最近のおことば」を更新。オコナーは実は読んだことがない。読んでみたいと思っていて、忘れている。今、読んでいる、荒川洋治「読書の階段」(毎日新聞社)にオコナーの書評が入っていて、そこに引用されていたのがこのことば。 * * * いよいよ日曜日でPPFNPは50回目を迎えます。平井アミさんと鉄井孝司さんによるライヴつき、おまけはなんと2枚組です。解説のブックレットは3万字、40ページ。ケースのふたが閉まりません。 まあ、選曲はいつものごとくバラバラで、なんの一貫性もありません。これはかけたいなあ、というのが、つい最近届いた、エリザベス・マックイーン&ザ・ファイアーブランズの『ハッピー・ドゥーイング・ホワット・ウィーアー・ドゥーイング』というアルバム。イケてないトミー・フェブラリーというか、張り切りすぎちゃったたひらあつこか、といったようなルックスの女が率いる、テキサス州オースティンのバンドらしいのですが、このアルバム、なんと、パブ・ロック名曲集。 ニック・ロウ、ダックス・デラックス、ロックパイル、スクイーズ、コステロ、フィールグッズ、グレアム・パーカー、などなど。こんなものがあったらいいな、なんてこと、一度も想像したことがなかったのだけど、ある意味、夢のアルバムだな、なんて思ったり。内容はややショボですけどね。全面的に許す。 ではみなさん、日曜日、渋谷でお会いしましょう。天気は……うん、大丈夫でしょう! (森山) *おことば・アーカイヴス* 絶望に至る道とは、いかなる種類の体験を持つことも拒絶することである。そして、もちろん、小説は体験を持つことに至る一つの道である。 ……フラナリー・オコナー (10/3 こちらに移動)
by soundofmusic
| 2005-09-23 20:11
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