いつもの

d0000025_16281763.jpgビルボード・ライヴでルーマーを見ました。自分が好きなのは必ずしも音楽じゃなくて、CDに蒸着されたり塩化ヴィニールの溝に刻まれたりした「録音」なんだよ、と誰に訊かれたわけでもないのに心の中で唱えながら大江戸線の六本木駅のエスカレーターを駆け上がって会場に向かったのですが、真っ赤な衣装に高いヒールの靴で登場した本人が、ピアノ、ドラムス、ベースという簡素な編成をバックに歌いだしてしばらくして、あ、この声が聴きたかったんだ、と気付きました。

精巧に編み上げられたコーラスや弦や管の入った、やや大きめの編成で見るのがベストなんでしょうけど、それはそのうちイギリスに行ったときの楽しみにとっておくことにして。ゆったりとしたうた、的確で出しゃばらないバンドのサポート、飾り気のない素朴なMC(「ゆっくりな曲ばっかりで眠くなってなぁい?」って言ってました)を堪能。最初の1、2曲はやや不安定な感じがあったもののすぐにぐいっと持ち直して、何曲目かの「トラヴェリング・ボーイ」のサビののびやかな声に、全身が粟立つ。こういうことはひさしぶり。

いままで出した2枚のアルバムのほかにも、ジュールス・ホランドのアルバムに客演したのだとか、ホームページからダウンロードできるのだとか、なんだかんだで数曲の録音があるはずですが、本篇はたしか全部、アルバムからの曲。そのかわり、アンコールの2曲はわたしが存在を知らなかった(録音されてない?)カヴァー曲でした。最初はギル・スコット=ヘロンの「レディ・デイ&ジョン・コルトレーン」、次はクリストファー・クロスの「セイリング」。「レディ・デイ~」は、いかにも彼女が取り上げそうな曲、というのではないけれど、モッズ風の上品なダンス・ビートに乗った彼女のうたは、笑っちゃうくらいいつものルーマー。わたしたちがふだん「個性」という言葉から無意識のうちに連想する、とんがっていたり強烈だったりする特性というのとはまったく無縁の場所で、彼女は彼女の個性を発散させていた。

んで、「セイリング」をうたう前には、こんなことを言っていた。「自分は音楽が好きで、イージーリスニング、映画音楽、ロマンティック・ミュージック、そういったものも好き。そういうのは恥ずかしいとか、ぜんぜん思わない」。彼女の音楽性についてひとつだけ知りたいと思っていたことがあって、それは、この音楽は彼女自身の意思によるものなのか、それとも誰かプロデューサーが、彼女の声を生かすにはこれがいいと思ってやってるのか、ということ。もし後者だった場合、スタッフが変わるとか、なにかの拍子で(わたしにとって)とんでもないことになる可能性がある。そうじゃないことがわかって、よかった。ということは、向こう10年くらいは安心してつきあえる相手を見つけたってことになる。

写真はクリストファー・クロス。顔が残念なミュージシャンの筆頭格。
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by soundofmusic | 2013-05-18 16:29 | 日記 | Comments(0)


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