フリー・ソウル・アメリカ

d0000025_15521564.jpgフリー・ソウルのシリーズが20周年を迎えたそうで、名盤がいろいろ税込み1080円で出てます。最初にCD化されたやつは結局中古でも値下がりしないままだったので買えずにいたジョージィ・フェイム『R&B・アット・ザ・フラミンゴ』だとか、ジャクソン・ブラウンの弟さんのセヴリン・ブラウン『セヴリン・ブラウン』(これよかったです)だとか、何枚か買ってみた。

フリー・ソウル/サバービア・スイート文化が世に出てきたいちばん最初の瞬間っていうのは覚えてないですけど、当時の自分の感覚からすると、昔の音楽を引っ張り出してきているにもかかわらず、それを歴史的文脈の中に位置づけないやりかたっていうのは抵抗があったかな。実際は、録音された音楽の情報量っていうのはものすごいものがありますから、別にライナーノーツがついてなくても、ちゃんと聴けば、それが自分の知ってる範囲のどこらへんに位置するかってことはわかるわけで、よしんばそれが一般に広く了解されている歴史的文脈と一致しなかったとしても、楽しむ上ではあまり問題はない。

まあ、抵抗があったのは、「音楽なんだから、とにかく聴いて楽しければあとの情報は一切不要!」みたいな極端な売り方に対して、だったんだろうな、といまになってみると思う。実際に未知のレコードを掘ったり、監修してCD化したりしてるひとたちはものすごく努力してるわけだけど、とはいえ、客にそんなこと言ってもウザがられるだけだから、宣伝戦略としては「聴いて、楽しい」がたぶん正しい。

90年代初めから半ばっていうと、旧来の教養/啓蒙主義的(=名盤ガイドを買って読み込む系)な聴き方が、過去の名盤のCD化によって無化していった時期って印象があるけど、実際問題、完全に無化されたのはインターネットの普及と、ほんとうに得体の知れないもの(隠れ名盤とか、知る人ぞ知るとかですらないやつね)が日常的にCD化されだした90年代後半~ゼロ年代あたりからなんじゃないかな。というのも、自分が若いころに見聞きした事物や経験した状況を特権化したがる、人間誰でも持ちがちな性質によるわたし個人の感想なのかもしれないけど。こういう話を何度も飽きずに書いているのはその証拠だと思うし。

それはそれとして、4月に、『フリー・ソウル・キリンジ』っていう2枚組の(いわゆる)ベスト盤が出て、いやいやそれはないっしょ! っていう。といっても、商魂たくましいとか、フリー・ソウルとキリンジって関係ないじゃん、とかではなくて、その反対。キリンジって、あきらかにフリー・ソウル以降の趣味や精神性にもとづいてるひとたちなわけでさあ(揶揄的な意味ではなく)……なにかほかの事例でたとえてみたいけどうまくいかない。

ともかく、フリー・ソウルっていうのは、音楽っていうでかい岩があったとしてさ、いままでは学者たちがごつい重機を使って岩ごと持ち上げて形を計測してみたり、重さを量ったり、放射線をあてて年代測定とかしてたところに、とことこってデッキシューズかなんかでやってきて、ささって表面のほこりをはらって削ってみたらうわっこの断面の色合いって最高じゃん! みたいなノリだったのかも。昔からやってたひとは、「いやいや岩っていうのはそういう気軽なものじゃなくて」と苦言を呈したりするわけだけど。って、いま無意識に岩って書いたけど、これ、誓ってロックのことを狙ったんじゃなくてほんとに無意識ですから……。

まあいわば、正規戦に対するゲリラみたいなもんで、大文字の歴史に対する異議申し立て、とまではいかなくても、こういう考え方もあるんじゃない? っていうオルタナティヴの提示ではあったんだと思う。フリー・ソウルとかレアグルーヴっていうのはもともとそういうジャンルが存在していたわけじゃなくて、物の見方のことでもあったわけで、だから変な話、オカンの作る家のご飯とか、毎日の会社の仕事とかにもフリー・ソウル的な瞬間を見出すことはできるはずなんですよ。どうやるのかはわかんないけど。でも政治活動もレアグルーヴっぽく楽しまれてるからね、いま。

まとまらなくなったけど、最後に。このあいだ、アメリカのポピュラー音楽の歴史を10曲で代表させたらおもしろいんじゃないかって思いついた。もちろん10曲では無理なんだけど、その無理を通すところがこのゲームのおもしろさであって、それに、じゃあ100曲なり1000曲なり挙げたら万全なものになるのかっていったら、そういうもんでもないでしょう。だったら、ハードルを低くして誰でもゲームに参加できるほうがいい。

以下、わたしが考えるアメリカ音楽の12曲(10曲じゃ無理)、フリー・ソウル・アメリカです。

◇ Bix Beiderbecke "In a Mist"(1928)→

○ Max Steiner "Main Title (Tara's Theme)"(1939)→

△ Carmen Miranda "Chica Chica Boom Chic"(1941)→

$ Mose Allison "Young Man's Blues"(1957)→

# Ornette Coleman "Una Muy Bonita"(1960)→

▼ Herbie Mann "What'd I Say"(1965)→

■ Duke Ellington "Blue Pepper"(1967)→

∵ Marvin Gaye & Tammi Terrell "Ain't Nothing Like the Real Thing"(1968)→

* Simon & Garfunkel "America"(1968)→

+ Harry Nilsson "Love Story"(1970)→

● James Taylor "Woman's Got to Have it"(1976)→

★ Robin Thicke "Blurred Lines"(2013)→

年代もジャンルもえらい偏ってますけど、どう偏るかにそのひとのひととなりが出るゲームなのでそれはそれで。こうして見ると、自分はアメリカ音楽のクロスオーヴァー性に興味を感じてるんだなってことが分かる気がします。

◇ バイダーベックは1931年に28歳で死んだコルネット奏者/ピアニスト/作曲家。あと10年20年生きてたら、ジャズの形はかなり変わっていたんじゃないか。そういう意味ではアメリカの山中貞雄。

○ 「タラのテーマ」は映画「風と共に去りぬ」のテーマ曲なので聴いたことあるひとも多いでしょう。おそらく世界中でいちばん広く聴かれた南部インスパイア系の音楽なんじゃないか。

△ このリストの姉妹篇として、「米国人以外によるアメリカ音楽12曲」みたいのが考えられるわけですが、そっちにもこっちにもカルメン・ミランダは入ってくるはず。

$ モーズ・アリスンにはいろいろいい曲がありますね。ホワイト・ブルーズの始祖のひとりだと思います。また、このひとがいなかったらいまあるような形での英国ロックはそもそも存在しなかった可能性が高い。

# オーネットはとくにどれか1曲選んでどうこうできるもんでもない気がするので「ロンリー・ウーマン」でもいいんですけど、こっちのほうがかわいいので。アルバムだったら『スカイズ・オヴ・アメリカ』一択でお願いします。

▼ 最高傑作『ラテン・マン』より、レイ・チャールスのカヴァー。レイ自身、ソウルもジャズもカントリーもなんでもござれのヴァーサタイルなひとだったわけですが、このヴァージョンもいいかげんにしろよと言いたくなるくらいすごい。

■ 『極東組曲』より。1960年代半ばからエリントン楽団のビートはあきらかに変わってきます。(たしかベイシー楽団から移籍してきた)ドラマーのルーファス・ジョーンズのファットなビートは、ロック音楽に対するエリントンからの反応だったんじゃないかな。それ以前も素材としてポピュラー系の曲を取り上げてはいましたが、そういうものよりもこっちのほうがロックを感じますね。ちなみにこの12曲のリストにはカル・ジェイダーとかマーティン・デニーとかレス・バクスターとか入ってませんが、そのへんもこの曲で代表させることにします。

∵ ソウル音楽をこの1曲ってのはさみしいんですけど、なにしろ曲数が限られてるので勘弁してください。「エイント・ノー・マウンテン・ハイ・イナフ」よりもこっちのほうがいい曲だと思う。ビヨンセとジャスティン・ティンバーレイクがなんかのイヴェントでうたったやつもYouTubeですぐ見つかるのでそちらも聴いてみてください。

* 『ブックエンズ』より。アメリカ文学でいちばん好きな短篇作家は誰かって訊かれたらポール・サイモンって答えるかもしれない。たぶんハル・ブレインの爆発的なドラムス、途中のクレズマーっぽいクラリネット。

+ 『ニルソン・シングス・ニューマン』より。このリストにはヴァン・ダイク・パークス、ライ・クーダー、ジョン・サイモン、ダン・ヒックス、といったあたりが入ってませんが、そのへんの、いにしえのポピュラー音楽に詳しいロック世代のひとたちはみんなひっくるめてこれに代表してもらいましょう。

● 『イン・ザ・ポケット』より、ボビー・ウォーマックのカヴァー。白黒混合音楽には頂点はいくつもあるでしょうけどそのひとつかもしれません。このリストには80年代のマイケル・ジャクソンとか入ってませんけど、そのへんはこれで代表(って強引だな)。

★ 急に時代が飛んだ上にひとから教わった曲ですけど。昨今の、曲とかあるのダセェ! みたいなトレンドに乗っかりつつ、オールド・スクールなソウル音楽の質感もあってけっこう好きです。

……やってみたけどやっぱりけっこうめちゃくちゃだな。エルヴィスもディランもバカラックもカントリーもヒップホップもない。ただしこれはなんかの正解に近づくためのものではなくて、むしろ既存の正しさから遠ざかるためのものなので、これでいいんだとも思います。みなさんのリストもぜひ拝見したいのでよろしくお願いします。
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by soundofmusic | 2014-05-23 15:55 | 日記 | Comments(0)


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