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うつむく青年

うつむく青年_d0000025_17504985.jpgいきなり冒頭のっけからで恐縮ですが、まず引用から始めます。

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 数多いシンガーソングライターの中に「うつむく青年派シンガーソングライター」という流派があることをご存じだろうか。イアン・マシューズはその、うつむく青年派のシンガーソングライターの一人である。
 この「うつむく青年派」の特徴は、
1.ルックスがよい
2.品があっておとなしい
3.けっこう孤独
4.レコードジャケットのセンスがよい、絶対歯をむき出して笑った写真は使わない
5.決して怒らないし、怒鳴らない
6.シングルがヒットしたりすると、とまどってしまう
7.ほんの少し、サウンドのつめが甘い
等があげられ、イアン・マシューズの他には、ジャクソン・ブラウン、アル・スチュワートなどが代表格としてあげられる。もっともジャクソン・ブラウンは、最近うつむく青年から少し怒っている社会科の先生になってしまったし、アル・スチュワートはただのはにかみ屋のお人好しになってしまった感もある。また、最近では、スザンヌ・ヴェガなんかも、うつむく青年派に属していると言われている。

(後略)
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これはイアン・マシューズの『ゴスペル・オークからの旅路』のCDのライナーノーツの冒頭部分で、とはいっても文中に挙げられている「最近」の事例を見ればお分かりのとおり、現行盤のではなくて、25年前に出たものの、です。当時、西ドイツという国があって(もうない)、そこのLINEというレーベル(たぶんもうない)から出ていたものに、日本のMSI(これはまだあるけど公式サイトのデザインが10年くらい前の感じ)がライナーと帯をつけて流通させたもの。

たぶんこのライナーを読み返したのは10年ぶりくらいで、それ以前もこれについて誰かと話をしたりしたことはなかった気がしますが、それでも、誰かがどこかで万が一「うつむく青年派が……」と口に出したなら、わたしが即座に反応したであろうことは間違いない。さっき検索してみたら、「うつむく青年派」について触れているひとはインターネット上にまだひとりもいないようでしたので(違ってたらすみません)、せっかくなのでと思って引っ張り出して書き写してみました。

ひさしぶりにこのアルバムを出してきて気付いたのは、まるで昔の少女マンガみたいなジャケだなということと、このライナーを書いているひとが岡田恵和だということで、Wikipediaを見ると1990年に脚本家としてデビューする前は音楽評論家だったこともあるようなので、そのころの文章なのかもしれません。

……と、ここまでは前フリで、そもそもなんで急にうつむく青年派のことなぞ思い出したのかといえば、先日、オウガ・ユー・アスホールのライヴを初めて見て、この音をなんて呼べば(=自分の知っているものの中のどのあたりに置けば)いいんだろうと思案する、その途中において、でした。

あきらかにポスト・ロックの影響下にありながら、同時に古典的なロック・バンドのフォーマットへの強い敬意も感じさせ(ギター、ギター、ベース、ドラムス)、そしてそのフォーマットの限界の拡張にも挑戦していて、てっとりばやくアンサンブルを成立させる言語としてのブルーズからは周到に距離を置き、それでいながらソウルやファンクへ通じる肉体性を併せ持ち、平気で1曲10分くらい演奏するけれどもプログレ的な大仰さではなくポリネシアン・セックスを連想させる地味な高揚感に貫かれていて、ある種の文系ロックにありがちなイヤミや気取りはほとんど見られず、10年くらいやってるくせにMCで自分たちのバンド名を明瞭に発音することができていないという、まあこんなバンドはそうそうないな、と思ったのでした。

そんなわけでいろいろ考えていて、彼らのことも、イアン・マシューズがそうであったのとは違った意味で、現代版のうつむく青年派、と呼んでもいいんじゃないかと思ったんですけど、岡田恵和が上記の文章を書いたほんの数年後、うつむいて自分の靴を見るみたいにしてエレキ・ギターをかき鳴らす、(しばしば前髪を伸ばした)青年たちの一群が登場してきたので、そしてオウガ・ユー・アスホールもそのへんとまったく無関係ではなさそうなので、話がまぎらわしくなるかもしれません。

というようなこと(のごく一部)をツイッターで書いたら、中野さんが、「ポリネシアンセックスてバンドですか?似てるなら聴いてみたい。」と(たぶん素で)返してきたのがおもしろかった。ちなみにわたしがこのたびオウガ・ユー・アスホールのライヴを見に行ったのは、中野さんのブログを読んで、そういえばオウガ、CDでしか聴いたことないのでライヴも見てみたい、と思ったからなんだけど、先月その話を中野さんにしたら、「森山兄さんは気に入らないんじゃないかなー」みたいなことを言われて、あまりに意外な反応だったので、うっ、となっちゃったんだけど、結果的にそうではなくて、よかった。そういう妙な色気(新しめのバンドのライヴが見たい)を出してここ1年で少なくとも2回失敗してるので。あと、中野さんは7月12日のPPFNPのDJとして出てもらうことになってます。
by soundofmusic | 2014-05-31 17:51 | 日記


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