木曜日、東京、バラカン

d0000025_837972.jpg水曜日、遅くまで仕事。この時間からではもうやってないだろう、雨も降ってきたし、と思ってまっすぐ家に帰ってきてしまったのだけど、仕事が終わってから現場に行ってもまだ充分に間に合ったみたいだった。木曜日、朝からうすぼんやりとしてしまって、職場にはいたけど、忙しくなかったのでほとんどなにもしなかった。台風で雨になるかもしれないと思い、雨だったら映画を見に行くつもりでいたら天気がもったので、今日がどの程度のものなのかよくわからぬまま現場に向かうことにする。桜田門で地下鉄を降りると、閑散としていて、自分と同じ目的らしきひとは見当たらない。と思ったら、いろいろあってもう口をきかないことにしているNくんが、柱にもたれながら本を読んでいる。CDウォークマンのイヤフォンを外し、歩みは止めず、「これから? 先に行くね」とだけ声をかけて地上に出る。

行くまでは、誰もいないってことはないにせよ、もしかしたら今日はあまり集まっていないかもしれない、とちらっと思っていた。そんなことはなかった。国会前の交差点から国会正門前のほうへ歩き出すとすぐに、歩道の脇の石垣に座っているひとたちが目立ち始める。小さなプラカードを掲げるひと、声をあげずにただそこに座っているひと。正門前へ向かって、自分と同じ方向へ進んでいくひとたちも増えてくる。

歩道は、全体の幅の3分の2くらいが参加者用のスペースとして割り当てられていて、横に並べるのはだいたい5、6人くらいだろうか。カラーコーンとプラスチックのバーで仕切られた歩道の残りのスペースは、途中で帰っていくひとや、人だかりをすっ飛ばして前方に進んでいくひとたちのために空けられている。そして警官たちがびっしりと隙間なく1列で並んでいる。まだなにも起きていないので、彼らの仕事は事実上なにもない。次々に、着実に増えてくる参加者たちに対して、「これ以上前に進んでも前方はいっぱいです、スペースはありません」と繰り返しているが、無視して前進してみると、その言葉がウソであることはすぐにわかった。

正門前まで50メートルくらいのあたりまで行ったところで、さすがにぎっしりとひとが詰まってきたので立ち止まる。着いたのは19時ちょっと前。その時点ではまだ明るかった空は、だんだん暗くなってくる。湿気をはらんだ空気は蒸し暑く不快で、しかしそこにいるうちにだいぶ涼しくなり、暗くなってからまた少し蒸し暑さが戻った。重層的なサウンドスケープ。街路樹にくくりつけられたスピーカーから聞こえてくるスピーチやシュプレヒコール。ドラムの音。参加者たちの合いの手。すぐ脇に立つ警官たちによる整理の声。頭上からのセミの声。時間の経過に伴う温度と湿度と明るさの変化をこんなにリアルに感じたのはひさしぶりかもしれない。

自分がいた時間帯は、途中までは総がかり行動実行委員会の主催で、そのあとはSEALDsの時間になった。福島瑞穂(社民)、小池晃(共産)、鳥越俊太郎、細野豪志(民主)、井坂信彦(維新)のスピーチを聞いたけど、井坂の話がなぜかいちばん印象に残った。「最近毎日のように飲み会に顔を出しているのですが……」と始め、いったい何を言い出すのかと思ったら、いろいろ意見の違うひとたちと話をしているのだと。みなさんも同じ意見の仲間とこうしてデモに来るのも重要だけど、身の周りにいる、違う意見のひとと腹を割って話してみてほしい、と。

SEALDsのひとの話しぶりは、(たしか)細野の登場に対してヤジが飛んだときの、「いろいろ言いたいことはあるだろうけど、ひとまずスピーチを聞いてくれ」というのと、これは誰のときだったか、「野党のみなさんは本当に重大な仕事を担わされているのでよろしくお願いします」的な、臆せぬ物言いには好感を持った。もとよりしゃちほこばった言葉づかいは求めていないし期待もしていない。聞けてよかったのは、「安倍晋三から平和を守れ」「安倍晋三から憲法守れ」というコール。いまそこにある危機が何なのか、を明確に示すよいフレーズで、思わず笑っちゃいました。

とはいうものの、やはりシュプレヒコールが持つ構造的な単純さ=美には、もちろん言っていることも効果も意味もわかるのだけど、決定的に受け入れがたいものがある。最初と最後にちょこっとやればいいんじゃないかとすら思う。そもそも国会前には通行人はいないし、倒すべき安倍晋三は国会の中にはこの時間にはもういない。数千人がおとなしく集まったところで誰にも見えないのでは意味はない。たぶん警察との折衝とかいろいろあってたいへんなんだろうけど。

炎天下から、あるいは自分よりももっと長時間、いたひとには申し訳ないけれど、ひととおりいい話を聞いて満足したし疲れてもきたので、2時間ちょっとで離脱した。行きがかり上、声も出すけど、それよりもむしろ耳を澄ますために、また言葉と音の現場に足を運ぼうと思う。

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ここから先は関係ない話。写真ですが、伊勢丹の夏ギフト。ピーター・バラカンが、客と直接話したうえで選曲し、10曲入りのCDを作ってくれる。お値段10万8000円。ちらっと見かけた情報だと、アナログ盤から(も?)選曲するらしい。それにしても高いよね。この文章を読んでいるようなあなたには、知り合いか、もしくは知り合いの知り合いくらいに、DJないしはそれに類したことをしている人間がひとりくらいはいるはずなので、そういうひとに頼んで作ってもらうといいと思う。
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by soundofmusic | 2015-07-19 08:37 | 日記 | Comments(0)


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