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いい奴

いい奴_d0000025_15581160.jpgビルボード・ライヴで、“うたう仔豚”ことロン・セクスミスを見ました。過去に4回くらい見ているし、もういいかなと思っていたらひとから誘われまして、そしたら行く数日前になって、そのひとに対して借金が発生してしまい、なもんで当日それを返済することができたし、ちょうどよかった。

とはいっても、借金返すついでくらいの価値しかなかったという意味ではもちろんないです。ピアノ、ドラムス(盟友ドン・カー)、ベース、ギターを従えた本格的なバンド編成で見たのは、自分は初めてじゃなかったかなあ。

いちばん最初に見たのは、たしか『ロン・セクスミス』の日本盤が(本国から1年遅れだかで)出た1996年、エルヴィス・コステロの来日公演に前座で出てきたときのこと。コステロはあのアルバムを、20年は聴き続けられる、と絶賛してて、ほんとに20年たっちゃった。自分は「シークレット・ハート」がいい曲だということにはその時点では気付いてなくて、覚えてるのはMCで、その何日後だかのクラブ・クアトロ公演のアナウンスをして、「来てくれたら嬉しいな。ぼくも行くんで(I'll be there.)」と言ってたこと。それ聞いて、あ、こいつ、いい奴だな、って思った。

『ロン・セクスミス』のプロダクションは当時一世を風靡したミッチェル・フルームとチャド・ブレイクのコンビで、自分は彼らの作る作為的な録音をおもしろいと思ったことがない。なんであのころそんなにもてはやされたのか、誰かに説明してほしい。最近はさすがに違ったことをしてるのかもしれないけど、というかいまあのひとたち、なにしてるんだろう。

90年代後半くらいに出てきたひとたちで、3~5枚以上継続して新譜を買ってきた、あるいは買いたい、と思えるひとたちって、自分にとってはロンセク、キリンジ、トラヴィス、くらいです。もう何人かいるかもしれないけど。こういうひとたちと比べると、名前を出して悪いけど、くるりとかアジカンとかスーパーカーとかは、ある特定の世代を中心にだけ支持を受けて、あとになってみると「なんであれがそんなにもてはやされたのか……」っていう存在だと思う。もちろんそれはそれで全然いい。

ロンセクに話を戻します。途中で3曲くらい、ピアノ弾き語りのコーナーがあって、ここが音楽史的にはいちばん興味深かった。彼のピアノはとくにうまくはなく、また、自分が見たセットではヴォーカルも万全ではなかったんだけど、その腕前とコンディションで聴く、たとえば「フールプルーフ」なんて、まるっきりホーギー・カーマイケルの延長線上にあるわけですよ。ざっくり言って、ロック、フォーク以前のポピュラー音楽の伝統が息づいている。本人はどのくらいそのへんのことを意識してるのかなあ。あまり知られていない戦前の曲のカヴァー集とか出したらおもしろそう。

そうしてみると、出世作「シークレット・ハート」も完全にその路線の曲であって、というか気付くのが遅いよ!って話なわけですが、このセットでは演奏されなかった。近くに座っていたお客さん同士の話だと、一部と二部とでだいぶ曲目が違っていたらしいので、ファースト・セットでは当然、うたったと思うんだけど。

そのかわり、アンコールでうたわれたのは「フォーマー・グローリー」で、歌い出す前に、たぶん、「Hopeful song」って言ってたと思う。イントロのキーボードのフレーズはほんの少しだけ教会音楽のオルガン風(「青い影」~「ひこうき雲」的な)だったし、もしかしたらパリで起きた事件を念頭に置いていたのかも。歌詞はとくに直接的にそういうこととは関係はなさそうだけど、というか彼の歌でそういう、世界平和とか人類愛みたいな題材を扱ってるのがあるかはわかんないけど。

帰り際、ほかのメンバーが引っ込んだあとも、自分のだけじゃなくて、ほかのメンバーの分のセット・リストの紙を拾い集めて客席にプレゼントしてたロンセクは、20年(弱)たってもやっぱりいい奴なのだった。
by soundofmusic | 2015-11-17 16:01 | 日記


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