メキシコ・シティ・ブルーズ

d0000025_958522.jpgメキシコ・シティとニューオーリンズでレコードを買ってきた。なぜこのふたつの街か、という話を始めればいささか長くなる。高校生のころ、リョサやガルシア=マルケスを読んで、大学ではスペイン語を勉強しよう、と思っていたのに自分の入った大学では履修できなかった(いまはできるようになってるみたい)あたりが中南米への興味の始まりか。いや、それよりももっと前、子供のころ、車で聴いていたオールディーズのベストのテープでいちばん好きだったのが「ルイジアナ・ママ」だったあたりが源流かもしれない(あの不思議なリズムと、歌の入るタイミング)。

利用したのはアメリカン・エアライン。スチュワーデスさんたちの、芝居がかって、饒舌で、がさつで、騒々しい会話とサーヴィス。そしてこれは別に彼女たちのせいではないけれども、おそろしく不味いコーヒー。旅は始まった。

調べ方にもよりましょうが、メキシコ・シティ中心部でアナログ盤を扱っている店を探すと、7軒くらいがすぐに出てくる(たぶんもっと存在はしてるはず。スペイン語では検索しなかった)。

暇にまかせて一応全部回ってみたところ、新品中心のセレクト・ショップだったり、値段もついてないローカル向けの古道具屋だったりして、気持ちよく楽しく中古盤買いができたのは以下の2軒でした。なお、中古CDが大量にある店ってのは見当たらなかった。

○レトロアクティボ・レコーズ(Retroactivo Records

一応、オシャレ・ゾーンみたいな扱いになっているローマ地区にある。高いものも安いものもあるが、1枚50ペソ(≒400円)出せば普通に興味深いものが拾える。自分で試聴もできる。

○デハロ・セール・レコーズ(Dejalo Ser Record's

ガイドブックには若干ガラが悪いと書いてある、ラグニージャにある。店名はたぶんスペイン語で「Let it be」の意味。ここはかなり広い。店頭に、70%オフの箱(1枚100~200円から)が20~30個あって、それらをざっと見てるだけでもうおなかいっぱいになった。もちろん店内にも、大量にある。たぶん掘り出し物も少なくないのでしょう。

メキシコからは以上です。ほかにもいいとこあるぞなどのコメント、アップデートをお待ちしております。

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せっかくメキシコまで行くんだったら、帰りにアメリカ合衆国のどこかにちょこっと寄って帰ろうとは思っていた。去年くらいから考えていたのが、次にアメリカに行くときはフィーリーズかミルク・カートン・キッズ(もしくは両方)のライヴを見たい、ということだった。

フィーリーズはわりとコンスタントに(頻繁にではないが)ライヴをしているけれども、活動範囲は東海岸の一部に限られる。ミルク~はそれこそ全米やヨーロッパでもトゥアーをしているので、タイミングが合うことがあればな、と。たしか今年は4月、数日内に両グループが、同じ街でではないがわりと近くの都市で公演することがわかり、そこを狙って行こうかなあとも考えてみた。しかしいろんな事情で断念。

ニューオーリンズで自由になる時間は実質丸一日だけで、あまりにもったいないとは思いつつも、いわゆる観光はほぼ省略して(ミシシッピ川の横断フェリーには乗った)、レコード屋めぐりを最優先事項とした。その結果、昼飯を食べそこなう。一時期、毎年のようにロンドンに中古盤買い付け旅行(個人消費用)に行っていたことがあり、そのころはよくこうして飯を食いそびれていたなーなんて思った。それにしても、これは昔話だけど、インターネットで外国のレコード屋を調べることができるようになる前からその手の旅行をしてたけど、よくやってたなあ。もう戻れない。

ニューオーリンズではやはり7軒くらいあたりをつけておいて(確実にもっとあるはず)、うち5軒を踏破。一応、寄った店ではすべてなにがしか買ったんだけど(専門用語でマーキングと呼ぶ)、やはり以下の2軒を特記しておきたい。こちらについても、コメント、アップデート歓迎。

○ルイジアナ・ミュージック・ファクトリー(Louisiana Music Factory

フレンチ・クウォーターのはずれにある。まずはここが代表的な店なのかな。新品、中古両方。自分は$3均一のアナログ箱をざっと見ましたが、そこだけでもごろごろ掘り出せました。ローカルのミュージシャンの品揃えも充実してるっぽい。

○ユークリッド・レコーズ(Euclid Records

観光客が回る地区からは少し離れた、バイウォーターにある。駆け足でレコード屋行脚して、よし最後にここで30分くらいは時間とれるぞ、と思ってたどり着いたら、二階建ての倉庫みたいな巨大な店が出現しやがった。そのときの虚脱感たるや。とはいえ、最初にここに来たら余裕で2時間くらいいてしまいそうだったので、よかったのかも。ラスボス感に圧倒され、しかし一撃は喰らわせておきたい、と大慌てでなんとか1枚だけ買った。数年以内に再訪&リヴェンジしたい。

ところでニューオーリンズのレコード屋には、たいてい地元(ニューオーリンズとルイジアナ)のコーナーがあって、そこで必ず見かけたのが、ピート・ファウンテンとアル・ハートだった。ふたりともそういう文脈で意識したことがなかったので、なるほどなと思う。アル・ハートは聴いたことすらないな。チェックしてみようっと。

夜はバーボン・ストリートに繰り出す。ガイドブックなどを読むと、いろんな店でライヴ演奏がおこなわれていて、開け放たれたドアからは通りにまで音が漏れ聞こえてくる、そして観光客たちは酒のカップを手にぶらぶら歩きながらそれを聴く、なんて書いてあって、たしかに文字にすればそのとおり。

しかしまあ、実際にその場に立ってみると、これはほとんど「狂気の沙汰」というやつに近い。客を呼び込むための、ヤケクソ気味の歌合戦ならぬ音合戦が繰り広げられている。とはいえ、やたらとうまいバンドがジャーニーとかジャクソン・ファイヴとかをやったりしていると、やっぱりついつい足が止まる。思えば、音楽を観光の売り物にしている場所っていくつかあると思うけど、その究極がこれなんじゃないかな。要するに毎日毎日フェスやってるようなもんで、とくに音楽に興味ないひとも、なんか面白そうだって世界中からやって来る。ちなみに、歩きながら通りすがりに聴いただけでも、うおっこりゃいいぞ、とわかるものはあって、バーボン・ストリートからは少しはずれたところにあるスポッテッド・キャットでやってた、ドミニク・グリーロのバンドのジャズがそれだった。あとで調べてみる予定。

昼飯を食いそびれたと書いたけど、ニューオーリンズに来たら食べたいものがいくつかあったので、それらはおおむね食べた。ジャンバラヤ、ガンボ、ベニエ、ナマズのフライ、ポーボーイ。ガンボのもとを買ってきたので、自宅でも作ってみるつもりでいる。ザリガニは食べなかったので、これは次回の訪問の際にでも。

ニューオーリンズに一日いるだけでも、フランスやらスペインやらの名残りが色濃いことには、気付こうと思えばいくらでも気付くことができた。さらに、メキシコから来ると、共通するあれこれが余計にくっきりと見える。たとえば骸骨。メキシコの典型的なおみやげのひとつに、色とりどりの骸骨がある。ニューオーリンズでも骸骨ものはよく見かけていて、ただし当地ではカリブ由来のヴードゥー風味も当然、加わっているだろう。ロックと骸骨の文化史、みたいなものを夢想したりもする。

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ニューオーリンズからグレイハウンドで内陸へ移動。沿道にはスワンプも広がっていた。数時間でLafayetteに到着。読み方はラファイエットないしはラフェイエットかと思ったら、ラフィエットらしい。フランス語由来かな? 難しい。

難しいといえば、ニューオーリンズで何度か、飲食店でのオーダーの際に名前を聞かれるというのがあったんだけど(スタバとかでもあるらしいやつ)、最初正直に本名を言ったら、レシートにはMasatatcukaとか微妙にアステカ風の名前が書かれていて(なんでメキシコから来たってわかったんだろ?)、なおかつ呼び出しの際にはその名前ではなくオーダーした品名がコールされる仕打ちを受けた(「あなたの名前は難し過ぎて発音できない」と言われた)。ので、2回目からはMikeと名乗ってみた。もちろん誰にもツッコまれない。

ところで発音のことは、注文するこっちにしてもけっこう大問題なのだ。もちろん飲食店に行ったら、財布と相談して食べたいものを食べればいいんだけど、知らない言語でメニューが読めない場合はもちろんある。今回の旅行の例で言えば、ナマズを頼んだとき、料理法はどうするかと訊かれ、メニューを見るとfriedとgrilledともうひとつから選ぶようになっている。それでふと思ったのは、自分がgrilledと発音した場合、スムースに通じないおそれがあるなということだった。

何十年も勉強してきていまさらこんなことを言うのも本当にアレなんだけど、RとLが同じ単語内の近接した場所にあると、意外と難しい。そして、伊丹十三がエッセイで、Lの発音を正しくおこなうのは一般に思われている以上に難しい、とか書いてたことを、すぐに思い出すのだ。同時に、いや、たぶんgri...まで正しく言えていればあとは流して胡麻化しても通じるはずだ、という逡巡もある。ありつつも、じゃあfriedでいいや、これならほぼ確実に訊き返されることなく伝えられるだろうし、そもそもフライでもグリルでもどっちでもいいし、となるわけです。ちなみにナマズの肉は、やわらかい白身で、なかなか美味しいです。

ところで、ラフィエットなんて聞いたことのない街に来たのは、ここでランディ・ニューマンのコンサートが見られることがわかったから。そこから逆算してのニューオーリンズ立ち寄りだったわけだけど、前述のとおりメキシコからニューオーリンズという旅程は、あまりにも見事なつなぎだった。

ラフィエットにほぼ一軒だけあるレコード屋の訪問を死ぬほど楽しみにしていたのに、行ってみると週に一度の定休日。もう一生、ここに来ることはないはずだ。入口のドアに顔を密着させ、店内を覗き込む。こういうときの常で、こざっぱりとした店内が、無限の可能性を秘めた宝の山に見えてくる。間の悪いことに、のんびり最後のレコ買いをしてゆっくり飯でも食うつもりだったので、時間だけはたっぷりある。ほかに見るものはなさそうな小さな街。ルイジアナ州立大学のキャンパスをぶらぶら散歩して通り抜け、コンサート会場に向かった。

数えてみたらなんだかんだで、海外でライヴを見るのは通算10組目かそこらなもんだけど、今回のランディ・ニューマンが、いちばん言語的/文化的な壁を感じた。ピアノ弾き語りの地味な音楽に、曲の途中でもMCでも、客席からは頻繁に笑いが起きる。自分の英語は、ときどき誤解されるようなネイティヴ・レヴェルとかそんなものでは全然ないんだけど(これは裏返っての自慢とかでは一切なくて、純粋に事実として)、英語の聞き取りの問題の先にまたもうひとつ乗り越えるべきなにかがあるんだなと、それはよくわかった。

もっともそれは、このコンサートを楽しめなかったという意味では毛頭なくて、危惧していた旅の疲れもまったく出ず、食い入るように、見て、聴いた。ただし、あらゆる音楽をなんでもかんでも一律に、ユニヴァーサルな言語として享受できるかっていうとそうではないってことで、たとえば知らない国の盆踊りに行ったら、音は聞こえるしなんなら輪にも混じれるけど、でも、なんかほら、そういうもんじゃないでしょう。

そしてたとえばこれを、渋谷のオーチャード・ホールで10000円払って、神妙に聴いたら、またまったく違う気分だろうなんだろうな。ところでこの日のチケット代は5000円とか6000円とかそんなもんで、それとは別にチケットぴあ、じゃないや、チケットマスターに、手数料で1000円くらいとられている。正直いい気分はしない。そして、会場ではチケットの確認もなんとなくおこなわれず、あれ、これこのまま入っちゃっても大丈夫……なんじゃない……? みたいななんとも微妙な状況だったことは付記しておきたい。

この日はスーパー・チューズデイだった。ラフィエットの街でも、バーニー・サンダース支持のステッカーを貼った店もあれば、トランプ支持の看板を庭に立てていた民家も見た。ニューマンもなにかそれに関した話をしたりするのかなと思ったりしたけど、考えてみたら、彼の曲そのものがアメリカなるものの体現であって、その巨大さの前では4年に一度のお祭り騒ぎはたいした問題ではないのかもしれない、と思い至った。

そして、自分がきっかり4年おきに訪米していることにも。2008年の秋にはニューヨークにいた。ちょうどオバマの就任直前のことで、あるバーにジャズを聴きにいったら、MCで、「次に演奏する曲は次期大統領のバラク・オバマに捧げます」みたいなことを言ってた。客席の雰囲気は、支持7:とまどい3、みたいな感じだった記憶があるけど、忘れられないのは、まさにその最中、店の後方の客が電話をしながら外に出て(たぶん、かかってきたのを受けて外に出たのだろう)、「なんかいま、オバマに捧げるとかいって曲やってんだけどー」みたいな微妙に揶揄的な口調で話をしていたことだ。もっとも、そのとき受けた強烈な印象を思い出しながらこうして書いていて、いや本当にそうだったかな? とだんだん自信が持てなくなってきているのではあるのだけど……。

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飛行機の中では、なにもしない。本も読まないし、映画ももう見ない。食事のとき以外は基本的に寝ている。昼間寝たからといって夜に眠れなくなることはない。だから本は持っていかないんだけど、今回は乗り継ぎが多く、時間を持て余す気がしたのて、買ってほったらかしにしておいた中村とうよう「俗楽礼賛」を持っていった。

パティ・ペイジから都はるみまで、30人(組)の音楽家を紹介する形で、とうようさんが考える世界のポピュラー音楽の見取り図を示す本。もちろん欧米にとどまらず、アジア、中東、アフリカ、南米なんかのひとたちもフラットにとりあげられていて、とはいえビートルズの5倍以上のページ数をリンダ・ルイスに費やしているあたりのバランスの悪さが、最高このうえない。

音楽に限らず、あれこれ新しいものを見聞きすることで既知の情報や知識や体験がシャッフルされ、活性化され、また違った意味を持つことがよくあるけど、とうようさんのこの本は、それ自体名著であるのはもちろんのこと、時間的・空間的にさまざまな点をつなぐ今回の旅の友として、とくにうってつけだった。とうようさんと、出発直前にこれを本棚から取り出した自分の勘のよさに、深くお礼を言いたい。

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写真、上から順に。
○レトロアクティボ・レコーズ。
○デハロ・セール・レコーズの看板。
○デハロ・セール・レコーズの店頭。
○メキシコの道端で売ってた、レコード盤を使用した(文字どおり)レコード・バッグ。ほかのところでは、LPの端っこ3分の1くらいのところを縦にぶったぎって、表紙とウラ表紙にしたスパイラル・ノートを売ってる輩も見かけた。バッグはアレだけど、ノートは買ってもよかったな。
○ルイジアナ・ミュージック・ファクトリー。
○ユークリッド・レコーズ。
○ダイナーの壁の、アラン・トゥーサンの似顔絵。
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by soundofmusic | 2016-03-04 09:59 | 日記 | Comments(0)


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