個展

d0000025_3123477.jpgどこで情報を仕入れたかぜんぜん覚えてないんだけど、先日、「黛敏郎個展」というコンサートがあったので行ってきました。10代後半から20代半ばにかけて書かれた6曲の生演奏と、30代の作品2曲(音源再生による)。

オープニングは、暗い中で再生される、電子音楽「オリンピック・カンパノロジー」。さまざまなところの鐘の音を採集してきて、電気的に変調させたり加工したりして作ったものらしいけど、ぱっと聴いただけだと、そんな大層な処理をしているようには思えない。単にテープ・コラージュだと言われてもわからない。数十種の鐘の音を聞き分けることができるこのひとなら、わかるだろうか。

で、この曲が終わると客席からは拍手が起きる。自分はちょっとためらってしまった。もちろん、DJが再生するレコードの音楽に拍手をすることはあるし、映画に対しても拍手をすることはときどきある(関係者などが列席していない場合でも)。しかし、純粋な再生音楽に対してそれをするってのは、なんかもどかしい。思えば、このときも同じような思いを抱いたのではなかったか?

生演奏の6曲は、編成も作風もいろいろバラバラで、前述したとおりの当時の黛の歳を考えると、まあ舌を巻くというほかない。この日、演奏されたうちでいちばん初期の作品「オールデゥーブル」(1947)は、黛は1929年生まれだから、18歳かそこらのときのもの。この日はピアノとドラムスで演奏されていて、第1楽章はブギウギ、第2楽章はルンバ。ジャズ・ファンの耳からすると明らかにスウィング感が不足していて物足りないけど、この曲、東京音楽学校(いまの東京藝大)の課題かなんかで提出されたものらしく、みんなびっくりしただろうな。ちなみに「東京ブギウギ」のレコードが出たのは翌1948年の1月だそうです。

「十個の独奏楽器のための喜遊曲」(1948)は、東京音楽学校の卒業作品。違ってたら申し訳ないですが、フランス風の開放感がある、風通しのよい曲に聞こえた。どこだかの海外のコンクールに出品したものの落選したそうで、それは純粋な出来の問題というよりは別の要因だったのではないか。

で、黛のすごいところは、まったく方向性の違った「スフェノグラム」(1950)を翌年のISCM国際音楽祭に出して、見事入選してしまうところ。この曲は、東南アジア~東アジア的な複数のモティーフを1曲の中にぶち込み、さらには日本民謡風のフレーズや西洋の作曲家っぽいところも顔を出し……といった具合の、キメラなんですが、はたちそこそこでそれを戦略的にやってしまう、できてしまうってのは驚き。この曲には、マーティン・デニーやアーサー・ライマンなんかのエキゾものとも並列にプレイ可能な瞬間があるし、思想的にはそれらを逆照射する細野晴臣らの先駆者でもあると思いました。

1953年には女優の桂木洋子と結婚。結婚式のために書き下ろした曲が、おそらく公共の場では世界初演だろうということで演奏されたんだけど、冒頭が、およそ結婚式にふさわしくないライトな不協和音で、まあ自分のパブリック・イメージをよくわかってる。曲が進むうちにウェディング・マーチかなんかの一節が織り込まれたり、後半は急に快活なテンポになって、指揮者は飛び上がるような動きでタクトを振る。この後半の急速調部分は、たぶん黛が手がけたなにかの映画音楽と共通するモティーフを使ってたと思う。

不協和音といえば、音源再生で披露されたもうひとつが、「0系新幹線車内メロディ」。発車時のジングルです。普通なら、あまり不穏な響きではマズいと思うんだけど、これは若干、旅への不安感をかきたてるような音響だった気がする。

セット・チェンジのあいだには企画者のひとが出てきて解説をはさんでくれて、門外漢の身にはそういうのもありがたかった。黛の音楽について、鋼鉄のロボットのようなかっこよさ、オシャレ、ユーモア、リミックス感覚、みたいなキーワードで説明していた。自分は主に映画音楽の作曲家としての興味から黛が気になってるんだけど、この日の個展は彼の純音楽側に焦点をあてたものとはいえ、自分にも充分楽しいものだった。来年は没後20年なので、たとえば武満と比べるとあきらかにワリを食っている感のある黛が少しでも注目されたらいいと思う。

ところで、ふだんクラシックのことなど完全に忘れて生活しているので、こういうコンサートに行くともらえる大量のチラシは貴重な情報源です。この日も、サントリーホールのサマーフェスティバルの案内が入っていて、おおそうだ、自分は夏フェスのたぐいにはまったく足を運ばないけどこれにはわりと行ってるんだったわ、と思い出し、今年のもブーレーズやメシアンの日に行くことにして、チケットを予約しました。
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by soundofmusic | 2016-06-13 03:16 | 日記 | Comments(0)


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