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2017年のグッド音楽

2017年のグッド音楽 _d0000025_1155062.jpg遅ればせながら、みなさまあけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

さっそくですが2017年のグッド音楽です。総購入枚数は2016年と比較して微減。3年連続の減少です。アナログ(ほぼすべてLP)は、2014年度から回復傾向を見せ、4年連続の増加。2017年は総購入枚数の3割強がアナログでした。アナログ復権うんぬんについての考え方は、「2016年のグッド音楽」(→☆)で書いたときとあまり変わっておりませんのでそちらをご参照ください。

ディスクユニオンに行ったときに棚を見る優先順位は、ラテンとソウルと邦楽がほぼ横並びで、SSW/カントリーあたりがそれに続く感じでした。ロックやジャズ一般の棚を全部見たりとかはあまりしなくなりました(時間と金の節約のため)。個別に欲しいものはアマゾン・マーケットプレイスほか、各種ネット通販を活用してピンポイントで買っております。

以下、2017年のグッド・アルバム12枚+2枚。+はCDとDVDのボックス。§はLP。>はLPとCD両方。ほかはCDです。順位なし。並びは買った日付順。

◇:斉藤由貴『斉藤由貴ベスト・ヒット』(1985-1989/2016)
●:雀斑『不標準情人』(2017)
▽:黛敏郎『黛敏郎 日活ジャズセレクション』(rec. 1957-1969/2017) 
}:Pastiche『That's R & B-Bop』(1984)
+:V.A.『Atomic Platters: Cold War Music From the Golden Age of Homeland Security』(rec. 1945-1969/2005)
■:民謡クルセイダーズ『民謡しなけりゃ意味ないね』(2016)
@:Bruce Cockburn『High Winds White Sky』(1971)
≠:吉澤嘉代子『吉澤嘉代子とうつくしい人たち』(2016)
∵:Iron & Wine『Beast Epic』(2017)
§:Honeytree『Honeytree』(1973)
>:Bob Darin『Commitment』(1969)
#:Rita Pavone『Il Geghege e Altri Successi』(1962-1973/2011)

◎次点:
・Joan Shelley『Joan Shelley』(2017)
・ジョー長岡『猫背』(2017)

◇:斉藤由貴の話を始めると、最初に好きになった30年前にまでさかのぼらずを得ず、めっちゃ長くなりますので省略。数年前から斉藤由貴熱が再燃し、ちょこちょこYouTubeで見たりしているだけではついに耐え切れなくなって、このベスト盤を購入(あとから、オリジナル・アルバムも2枚くらい買いました)。これを買った4月は、1月に発症した網膜剥離の手術後の回復が期待したほどではないことがわかってきて精神状態が非常にかんばしくない時期で、頻繁に妻に八つ当たりしたりしていました。誇張ではなく1か月以上連続で、毎日一度はこのCDを聴いて、精神を安定させていました。妻とこのCDには感謝しかありません。とくに好きな曲は「初戀」と「MAY」です。

また、2017年は、森田芳光「おいしい結婚」と渡邊孝好「君は僕をスキになる」の2本の映画で、彼女のコメディンエンヌとしての才能を再確認しました。「恋する女たち」もまた見直したいところですが、未見の「トットチャンネル」もどこかでやってくれないかな(と、一応書いておく)。

●:台湾のシティ・ポップ。発売前に岸野雄一がおすすめしてたので試聴してみて、気に入り、台北に行って購入しました。その時点では日本盤が出る気配がなかったので知り合いのディスクユニオンのひとに勝手に推薦してみたりもしたのですが、結局他社からリリースされましたね。ところでここ数年、日本の現行シティ・ポップとその周辺の盛りあがり状況はなんとなく関知してまして、そしてなにしろなんでもタダで試聴できる大試聴時代ですから、いろいろ試聴してみましたが、自分で買ってみたいと思えるものはごく僅かでした。ということは、本作は、北東アジア全域において、つまるところ世界的に見て、おそらく最高レヴェルの現行シティ・ポップである、と判断してよろしいのかなと。アー写が「ナイアガラ・トライアングル」のなにかを模していたりと、日本のものもいろいろ聴いてそうですが、ちょっと真似してみた、程度のものではなくてよく咀嚼されてる。改善してほしいのはジャケットのセンスのみ。

ところで、シティ・ポップとは少し(もしくは、かなり)ズレますが、年末に聴かせてもらったウワノソラ『陽だまり』は素晴らしかったです。Lamp、カンバスあたりが好きなひとは名前を覚えておいていいかも。

▽:映画27作品の52トラックを収録した、タイトルどおりの編集盤。一時期、昔の日本映画をよく見ていた人間としては、黛敏郎は「題名のない音楽会」の司会者としてよりも、映画音楽の作曲家としての印象が強いです。黛は、本ディスクの音楽が世に出た1957年から1969年のあいだに、だいたい100本くらいの映画の音楽を手掛けていて、もちろん日活以外の会社でやった仕事も、ジャズっぽくないものも多数あるのですが、こうして限定された範囲から選ばれたトラックを聴いていると、多忙さゆえのモティーフの使い回しとか、条件的制約の中での冒険とか、さまざまなものが聞こえてきておもしろい。いくつかの曲は、「ジャズが好きなクラシックの作曲家」ならではのもので、たとえば、「狂熱の季節」(1960年9月公開)では、物語の要請上、黒人のジャズと白人のジャズを描き分ける必要があるのですが、黛はそれを難なくこなしていて、なおかつ、おそらくオーネット・コールマンあたりにインスパイアされたであろうフリーっぽいフレーズを取り入れたりもしている。確認してませんが、同時代の日本の純ジャズメンでも、黛より先に進んでいたひとはほとんどいなかったんじゃないでしょうか。

武満徹が、頭部の人間離れした特異な形状のせいもあってか神格化されているのと比べて、黛は、晩年のネトウヨ(という言葉は当時はまだありませんでしたが)的言動が災いしたのか、なかなか再評価される気配がなく、長らく歯がゆい思いをしていました。没後ちょうど20年にあたる月にこうした盤が出たことは嬉しいし、ありがたいです。最後に、黛のかわいらしい動画をどうぞ。→☆

}:アメリカ人4人組のジャズ・コーラス・グループ。カシオペア(「ジジメタルジャケット」風に言えば“カショーペア”)のバック・コーラスもやっていたそうです。これはジャパン・マネーによって制作されたホワスト・アルバムで、数年後にジャケ違いの米盤も出ました(わたしが買ったのはそっち)。演奏にはヴィクター・フェルドマン、バド・シャンク、ジョー・ポーカロなどの著名なプレイヤーが多数参加しており、バブル突入直前のきらびやかさはありつつも、デジタル臭はほぼありません。普段であれば80年代のジャズ、というだけで敬遠するみなさまも、嫌悪感なく楽しんでいただけます。曲目は「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」「サヴォイでストンプ」といったスタンダード中心ですが、サザンの「いとしのエリー」と松田聖子「スウィート・メモリーズ」、このふたつの英語カヴァーがとくに気に入って何度も聴きました。「いとしのエリー」は、ドナルド・フェイゲンの「雨に歩けば」風のアレンジ。「スウィート・メモリーズ」はもともとがああいう曲ですからわりとそのまんま移植されていますが、途中で、「ホワッ!?」という(2017年頃のネットスラングそのままのような)素っ頓狂な合いの手が入っていて、いつもそこで笑ってしまうのです。

ところで、2017年に出会って、パスティーシュと並んでよく聴いたコーラス/ヴォーカル・グループのひとつがL.A.バッパーズで、とくにアップ・テンポなモダン・ソウルに改作された「ララは愛の言葉」だとか、ランバート,ヘンドリックス&ロスのメドレーだとかを収録した『バップ・タイム』は、ぜひチェックしてみていただきたい1枚です。

+:ボックスものなんて買ってもたいていはほったらかしなので買わないに越したことはない。これはおそらくわたしが生前最後に買い求めたCDボックスになると思われます。CD5枚+DVD1枚+300ページ近いハード・カヴァーの解説冊子がLPサイズの箱に収められております。内容はサブ・タイトルのとおりで、第2次大戦終結の年から四半世紀のあいだに作られた、原水爆、反ソ、反共、朝鮮戦争、ヴェトナム戦争などを題材にした、音楽、ナレーション、短篇映画などが大量に味わえます。俗に、歌は世につれ世は歌につれ、と言いますが、世が歌につれるかどうかはともかく、世相に影響されてこれだけの録音物がつくられて世間に出回ったことは間違いないわけで、単に流行に乗っかってみただけと思しきものから、心配性や被害妄想の産物に至るまで幅広いヴァラエティの不謹慎エンタテインメントが満載。このボックスを買うのはなかなかハードルが高いでしょうし、また、その必要があるひともさほど多くはないでしょうから、みなさまには2014年にリリースされたCD1枚に集約されたヴァージョン(タイトルは同じ)をおすすめします。

■:いま読み返したら、「2016年のグッド音楽」で、「2017年は(中略)アラゲホンジや民謡クルセイダーズなんかも見たり聴いたりしてみたいです。」と書いてましたね。予言?したとおり、2017年はアラゲボンジのCDを買いましたし、民クルはライヴを拝見。その会場でこの5曲入りCD-Rを購入しました。ひとことで言うと、日本の民謡や俗謡をアフロやラテン感覚で演奏するバンドで、それだけなら昔から東京キューバン・ボーイズあたりも似たようなことをしておりましたが、民クルは米軍基地のお膝元である福生あたりを本拠地としているせいか、どこかガレージっぽさがあるのが特徴ですね。あとは、音楽的に似ているというのではないですが、タイの音楽のユルさにも通じるものがある気がします。昔から、「パーティ・バンド」という言葉の本当の意味がよくわからないままで生きてきたんですけど、三田村管打団?とか民クルがそうなんだよって言われたら、素直に納得できます。本盤はもしかするともう品切れかもしれませんが、2017年の年末にフル・アルバム『エコーズ・オブ・ジャパン』がリリースされていて、そちらは全国流通しているので普通に買えるはず。

@:どうでもいいことを何十年も覚えていることって誰でもあると思うんですけど、昔、POP-IND'Sっていう雑誌があって、そこで名盤200選みたいな企画がありました。いや、いまあなたが言おうとしているそれは、1991年のピチカート・ファイヴの特集号のときのやつですよね。それじゃなくて、1989年の夏に出た、細野晴臣が表紙の号に載ってたほうです(→☆)。

現物がたぶんもう手元にないので記憶違いの可能性もありますが、そこで、チープ・トリックの『ネクスト・ポジション・プリーズ』(トッド・ラングレンのプロデュース)が選ばれてて、アメリカにはビートルズ的な意味でのポップ・バンドは意外と少ない、もともとあった土着的な音がポップとされるからである、と書いてありました。当時16歳のわたしはアメリカ音楽とイギリス音楽の違いもほとんどわからないようなありさまでしたが、その一文はなんとなくずっと印象に残っていました。

思い出話はここで終わりですが、そういえばカナダという国や、そこ出身のミュージシャンたちの特性についてマジメに考えたことがあまりなかったので、英米の音楽がいい感じでブレンドされたこのアルバムは少なからぬ衝撃でした。言い訳ではないですが、本作の存在は当然知っていて、過去に何度か試聴もしたはずなのに、そのときにはなぜか引っ掛かりを覚えず、2017年のいつだったか、なにかの拍子で何度目かの試聴をして、ようやく名盤だと気付きました。何度も再発されているこうした歴史的名盤は、粘り強く待っていれば必ず500円くらいで見つけられるのはわかっているのに、我慢しきれず、日本盤紙ジャケCDを1400円も出して買ってしまいました。その後、デビューから80年代初頭までの10枚のアルバムを次々に(比較的安価で)買い揃えられたので、よしとします。短期間で立て続けに買った結果、1枚1枚を吟味するほど聴き込めておらず、もしかしたら本作よりも気に入るものが出てくる可能性もありますが、最初のインパクト重視でこれを選んでおきます。

ところで2017年度は次点として、2016年度にはグッド12のうちのひとつとして選出したジョーン・シェリー、彼女自身はケンタッキー州の出身ですが、音づくりの核となっているふたりのギタリストがたぶんひとりはアメリカ人、もうひとりはイギリス人で、そのあたりも自分好みな理由かもしれないなあと思っています。

≠:すごく好きだったりそうでもなかったりの変化を経つつも、だいたい四半世紀くらいファンでいるバンド、カーネーションの2017年度新作に参加しているゲストのひとりとして吉澤嘉代子の名前がありました。未知の存在だったので試聴→わりと気に入る→ディスクユニオンで購入、という例の流れです。一応メジャーから何枚かの作品を出していて現在活動中なのに、それまで名前を耳にしたことがなかったのは、宣伝が弱いのかわたしが薄ぼんやりしていたか、たぶんその両方だったのでしょう。

このミニ・アルバムは、全7曲、それぞれ別のひとたちとのコラボまたはリミックスで、すべての名前を挙げると、サンボマスター、私立恵比寿中学、岡崎体育、伊澤一葉、ザ・プーチンズ、小島英也(ORESAMA)、曽我部恵一、です。半分くらいは知らない名前ですが、それにしてもめちゃくちゃな組み合わせであることはなんとなく想像がつきます。そして、吉澤そのものの持ち味がそこなわれていない(=いいとこは自分で持っていってる)のも見事ですね。ご本人、たぶん相当に我が強いんじゃないかなと想像。いちばん繰り返し聴いたのは、サンボマスターのひとが曲も提供した「ものがたりは今日はじまるの」で、大滝詠一が全盛期の(『深海』で辛気臭くなる前の)ミスチルをプロデュースしないかぎり、こんなポップスは生まれないであろうと(血迷って)思ってしまったくらいの名曲。ついでに、サンボマスターってどんなだったっけ、と試聴もしちゃいました(で、そうだ、声がさわやかで見かけがややブサイク気味なギャップ・バンドだったわ、と再確認)。

これを買ってから1か月くらいして、「残ってる」のPV公開で急に注目されたみたいで、なんにしろおめでたいです。2018年、彼女のますますのご活躍と、わたしが彼女のほかの作品をリーズナブルな価格で購入できることを祈っています。

∵:アイアン&ワイン、たぶんオリジナル・アルバムはほとんど持っていて、それなりに愛聴しているにもかかわらず、とくに曲を覚えるとかでもなく、いつもなんとなくの「感じ」で聴いています。11月、ニューオーリンズでライヴを見ることができ、音が出た瞬間に2階の席とステージとの距離がほぼゼロになったかのように感じられる芸術的なPAと、アルバムの繊細な音響を人力で再現するバンドのさりげない底力に度肝を抜かれました。内容的な意味でもメモリアル的な意味でも、2017年に見たそれほど多くはないライヴの中、もっとも印象深いもののひとつです。あとは9月に山梨の山の中の一軒家で見た中村まりと、6月の須磨浦山上おんがく祭(二階堂和美、三田村管打団?)ですかね。

帰国してから聴き直してみると、盤を再生するたびにライヴで受けた印象が蘇り、ああ、レコードってのはいいもんだな、と心の底から素直に感謝の気持ちが湧き上がってきました。どこがいいのかを無理やりひとことで言うと、頭がよさそうでなおかつオーガニックな全体の音響設計ってことになりますかね。ところでわたしとしてもあれこれ2017っぽい音響を聴きたい気持ちはあるので、名前を見かけたいろいろなひとの新譜を試聴したものの、するとかなりの確率で、声が人間っぽくなく加工されていて、そこでだいたい無理無理無理、ってなって聴くのをやめざるをえなくなってしまいます。つまり日本のアイドルものとアメリカの売れてるやつはほぼ聴けない。自分がアダプトするべきなんでしょうけど、これについてはちょっと生理的に譲れない部分でした。フォーク/SSW方面のひとが妙な色気を出してそういう声の加工をし始めないよう祈るばかりです。

§:どこだかで「クリスチャン・ミュージック界のキャロル・キング」みたいな紹介をされていました。お聴ききになれば、決して過大評価や誇大広告ではないとおわかりになるはず。たぶん現代にいたるまで活動を続けている彼女の、たぶんホワスト・アルバム。歌詞の内容は、おお神よ、的なものがほとんどのようですが、音楽の表面的な部分は、いわゆる70年代のフィメールSSWの最良の部分を凝縮したようなもので、とくに抹香くささを感じずに聴くことができます。ということは、話は逆で、本質というか内実の部分が極上のSSWアルバムで、表面に乗っかっている言葉が抹香くさいだけ、と言うべきか。要するに、宗教とか気にせずにどしどし聴いてほしいんですけど、CDになってないのかな。

それにしてもセレクト系のレコ屋各店の、宗教系レコードにいたるまでの調査・研究の熱心さは本当にありがたい。そのおかげでわたしのところにも情報が回ってきて、こういう素晴らしいアルバムにたどり着けるわけですから。ちなみにこのアルバム、某レコ屋のメルマガで知りました。とはいえそこで買うと高いので、情報だけ仕入れて、購入は後日に別の場所で……がほとんどでしたが。どうもすみません。こちらは北浦和のディスクユニオンで、リーズナブルな価格で買いました。年に数回しか行かない店舗ではあるものの、微妙にお世話になっております。今年もよろしくお願いします。

>:現在までに第2集までリリースされているオムニバス『カントリー・ファンク』は、読んで字のごとし、いい感じにビートが利いたスワンプっぽい曲を集めた名シリーズで、その第2集(2014)に入っていたのがボブ・ダーリン「ミー・アンド・ミスター・ホーナー」でした。ファットなビートにトーキング・ブルーズ風のヴォーカル、そしてボブ・ディランっぽい名前に衝撃を受けて、こいつは何者だと調べてみたところ、50年代後半から60年代にかけておもにティネイジャ向けのヒットを連発していたボビー・ダーリンが、名前をちょっとだけ変えて、自身のレーベルからリリースしたアルバム『コミットメント』の曲だとすぐにわかりました。

となると、じゃあそれ買おう、と例によって短絡的に考えてみたものの、ネットで調べると一度だけCD化されたものは廃盤で、数千円~数万円の値段がついている。秋、アメリカ旅行に出かける直前に、それまでの相場からすると激安の価格で中古CDが出てるのに気づき、自分が普段出す値段の上限よりは4割~5割増しだったものの、思い切って購入し、帰ってから聴くのを楽しみに飛行機に乗り込んだのでした。そしてアメリカ滞在の何日目か、たまたま立ち寄ったアンティーク・モールの中のレコード・コーナーを何気なく見ていたらアナログ盤を発見。税込みで$13.20(≒1500円)だったので、一瞬躊躇したものの、ダブりになるのを承知で購入しました。ちなみに、次回アメリカにレコードを買いに行くときの、将来の自分に向けて書きますと、何軒かレコ屋を回っていると、一度見かけてスルーしたものはかなりの確率でまた見かけます。そして、一度も見かけないものは結局一度も見かけない。その中間にある、一度しか出現しないものをいかにして見極めて確保するかが肝要なのです。なんか書いてて、当たり前すぎるようでもありオカルトのようでもある日本語の記述になってきましたが、次回渡米の際は、2017年の旅では一度も見かけることができなかった、ラリー・ジョン・ウィルソン『ソジャーナー』をぜひとも手に入れたいものです。

さて、すっかり与太話が長くなりましたが、わたしは昔から、いわゆるロック時代に顕著になった、過剰な自作自演重視傾向(それ自体はあまり意味はないと思っていますが)に対して、それ以前から活動していたひとたちがどのように対応していったか、になんとなく興味を持っています。エルヴィスの失速(かどうかは意見が分かれるでしょうか?)も、ジャズメンたちがロックのヒット曲のカヴァーをさせられていたことも、そうした流れの中に置いて眺めるとより興味深いですし、さらに視点を広げてみれば、白人SSW作品にソウル~ジャズ系のセッション・ミュージシャンたちが参加し始めた現象ともまったく無関係ではないでしょう。で、そういう視点からジョニー・リヴァースのいくつかの作品や、ダーリンのこのアルバムを聴き直すと、いっそう立体的な理解が育まれるはずです。

#:12月にイタリアに行きまして、まあやはり現地のレコ屋にあいさつがてら立ち寄ってみるものの、現地の音楽のことをろくすっぽ知らないせいで、イタリア人コーナー見てもなにがなんだかわからない。まさかそんじょそこらにトロヴァヨーリやらカトリーヌ・スパークが投げ売りされているわけもなく。旅の後半、シチリアのカタニアという街でちょうどレコード・フェアが開催されていたので寄ってみて、一応ざっと流して2枚くらい買って、さあ帰ろうかと思ったときに、7インチが大量に売られているコーナーが目につきました。普段7インチを買う習慣はないのですが、アメリカなんかと違ってほとんどピクチュア・スリーヴつき(=日本と同じ)なので、おみやげのつもりで地元のものをジャケ買いしてみるのもよかろう、と思い至りました。

そこで引き抜いたのが、ソバカスだらけの愛嬌のある女の子が得体の知れないハンド・サインをしているジャケットで、それがリタ・パヴォーネ「Plip」でした。B面は「メリー・ポピンズ」の劇中歌「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」のカヴァーで、なるほど、知っている曲なので買ってみることにしました。ほかにも、適当によさげなジャケを引っこ抜いて、注意深く見てみると、曲名はイタリア語でしか表記されていなくても、あきらかに作曲者名がイタリア人っぽくなくてアングロ・サクソンな感じの場合がけっこうあって、米英の曲のカヴァーであろうと推測できるわけです。

まだるっこしいので話を飛ばすと、同時代の英米のヒット曲のローカライゼイションは日本でもおこなわれていたわけで、つまりリタ・パヴォーネはイタリアの雪村いづみ、ないしは江利チエミみたいな存在だったのかな、と。そう気付いたのはその晩、ホテルに戻ってから。わたしの泊まった部屋にはターンテーブルがなかったので、Wi-Fi経由でYouTubeにアクセスして、目の前のジャケットを眺めながら「Plip」と「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」を聴いたときでした。パンチの利いた歌声、勢い余ってネジがはずれたようなアンサンブル。アップ・テンポな曲でのリズムは極めてモダンで、早すぎた渋谷系というか、ロックンロールとカンツォーネの野合というか、続けてほかの曲も聴いているうちに、すっかりファンになりました。勢い余ってそのままその場で注文したのがこの3枚組アンソロジー。全36曲収録ですが、曲が短いので3枚のトータル時間が90分ほどないことを除けば非の打ちどころなし。歌謡曲のようでもあり、オールディーズのようでもあり、R&Bのようでもあり、そしてそのどれでもない。カヴァーもオリジナルも曲名はすべてイタリア語表記のみなので、流しているとところどころ、聞き覚えのある曲のイタリア語ヴァージョンが飛び出してくるのが楽しい。

◎次点:単によく聴いたもの、出来がよかったものを挙げるならばあと10枚くらいすぐに出てきそうなので、ひとまず2枚。ジョーン・シェリーのセルフ・タイトルド作は、2016年のわたしのグッド音楽に選出された前作に負けず劣らずのクウォリティで、最高傑作と呼んでも差し支えなさそうな充実作。なんとなく2年連続で同じひとを選ぶのもなあ、程度の消極的な理由での選外。地味っちゃあ地味なひとなのでこのくらいのポジションがちょうどいいかも、と言っては失礼にあたるでしょうけど。ジョー長岡『猫背』は、いろいろお手伝いした関係もあって、とにかくよく聴きました。聴いた回数でいうと、斉藤由貴、雀斑と並んで2017年のトップ3だったはずですが、単に回数が多いだけでなく、普段こんなにマジメに音楽を聴くことはそうそうないだろってくらいの真剣さで向き合ったアルバムが、『猫背』でした。

2018年も、みなさまとわたしによい音楽との出会いがたくさんありますことを。あと、みなさまのことは存じ上げませんが、わたし個人の目標は、CDをできるだけ処分する、です。
by soundofmusic | 2018-01-13 12:37 | 日記


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