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生活の柄

わたしの周りでは、口石アキラくん以外はほぼ全員が大絶賛(誇張でなく)の、山下敦弘「天然コケッコー」ですが、なんだかノれなかったなぁ。

映画は現実を見据えてなんかいなくたって一向にかまわないのだけど、この映画のひとたち、生活している感じが全然しない。14巻とかそこらくらいある原作を2時間にまとめることについては、この作品は完全に成功していると思うけれど、時間をかけることによってしか生まれないコクみたいなものが出なかったのは、いたしかたないというところでしょうか。コクというか垢というか、生活感というか。

と書いたところで、この感想がフェアなのかどうかとの疑惑は残るので、良い、悪いの判断を含めて、公式にはノーコメントといたします。わたしに会っても、この映画の感想を訊ねないように。ただし、あなたの感想は聞きたいので、自発的に話しかけること。

キャストのうちかなりのひとが原作に死ぬほどそっくりで、これには心底驚かされる。あ、これに触れると、どうしても感想を書きたくなっちゃう。実は途中から、もっかい原作を読み返してぇなーと、そればっかり考えてたのでした。

映画見る資格、ゼロだね。すいません、各位。

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とはいうものの、「天コケ」の前に、ラピュタ阿佐ヶ谷の野添ひとみ特集の、家城巳代治「姉妹」を見に行っていて、この2本、われながら絶妙のつなぎだと感心してしまった。DJ、HJに続くFJ(フィルム・ジョッキー)。

唇が触れるか触れないかのファースト・キス、お互いに寄りかかるようにして歩く姿、いまでは失われてしまった古き良き年末年始。こうしたものが、「天コケ」と「姉妹」では、ところどころおそろしく似通っている。脚本の渡辺あや、「姉妹」を見たんじゃねぇのかとの疑惑も湧きましたが、そういうことではないでしょう。ともあれ、「姉妹」、いままで薦めた結果によると、見たひとは全員気に入っている。ツタヤにあったりするので、ぜひ見ること。

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山下は「松ヶ根乱射事件」でも、田舎をさもたいそうな場所のように描いていて、あれでは、地方の人間が、東京に行けばなんでもあると思い込むのの裏返しに過ぎないのではないか、とちょっとひっかかっていた。

アメリカ映画におけるメキシコとか、マキノの描く木場とか深川とかは、世間の秩序とはまったく別のルールが支配する映画的なユートピアだからまあデタラメでもさしつかえない、というよりむしろ、デタラメであることがのぞましいわけだけど、たとえば、山下は、松江哲明「童貞。をプロデュース」の梅澤くんが住む東秩父の田舎を見て、どういう感想を持ったのか、気になる。

最寄りの自動販売機も4キロ先だという超田舎に住むサブカルオタク、梅澤くんは、仕事の休みの日になると、買い出しに出かける。昼飯はコンヴィニのパンとおにぎりで済ませて、埼玉、群馬のブックオフほか古本屋を車で行脚するのだ。この休日の過ごし方はなかなか悲惨で、それでいて笑えるものがある。学校を出たあと、1年弱のあいだ実家に戻っていたときのわたしの休日の過ごし方が、これとまったく同じだったからだ。当時のわたしは、それを「豪遊」と呼んでいた。ちゃんちゃらおかしい。

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ところで、その梅澤くんにせよ、童貞1号の加賀くんにせよ、友人には恵まれているみたいだ。わたしはモテるタイプでは全然ないけれど、加賀くんや梅澤くんと同じくらいの年齢のころには、友人を作るのは恋人を獲得するよりもはるかに難しいと思っていたし、いまでも基本的には、そうだ。

なんだかへんな話になりそうなのでここで終わるけれど、その前に言っておく。「童貞。をプロデュース」は、いま、何をおいても見るべき映画の1本なので、みなさま大至急、池袋西口のシネマロサに駆けつけられたし。加賀くん、梅澤くんの生活っぷりの描写も見事な、今年いちばんの青春映画ですよ。
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by soundofmusic | 2007-08-31 12:27 | 日記 | Comments(0)

SOM

7月に「サウンド・オヴ・ミュージック」の10周年号が出たことは前にも書いたような気がするし書いてないような気もするのですが、こうした紙モノを作っていると、ときどき、「どこに置いてるんですか?」と訊かれることがあります。以前は古本屋とか、カフェとか、レコード屋とかに置いたりしていたのですが、最近はめっきり置いてません。昨日、茶箱にも持ってったのに、結局、誰にも配らなかったなあ。

ただし、なぜか長野県松本市には独自のルートがあって、雑貨屋とかレコード屋とかで入手できるようになっています。詳しい店の名前とかは知りませんが、興味ある方は森山まで連絡くれれば、現地の営業担当者に確認します。

そのかわり、といっちゃなんですけど、このたび、オンラインで入手できるようになりました。「ZINE(ジン)/ミニコミ/アーティストブック、多種多様なインディペンデント・パブリッシング、世界の同人誌・同人誌の世界、アートとサウンド、クラフトとD.I.Y.……などなどを扱う小さなオンラインショップ」、Lilmag STOREで取り扱い開始です。商品説明のページはこちら

インターネットを始めたころ、まず手を出したことのひとつがレコードの通販。最先端の文明の利器を使って、海外から、ボロいアナログ盤を、送料の安い船便で取り寄せたりしていると、インターネットと船便というその組み合わせになにやらクラクラさせられたものでした。オンラインショップでフリーペーパーをオーダーするってのも、それに近いユルい衝撃がありますね。

「サウンド・オヴ・ミュージック」本体はもちろん無料なのですが、お店なので、送料がかかります。ただし、いろいろ頼んでも送料一律。だから、お店をくまなく見て回って、気に入ったもののついでに「サウンド~」もオーダーするのが、吉。
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by soundofmusic | 2007-08-25 20:32 | 日記 | Comments(0)

DJ/HJ

昨日は早稲田の茶箱でイヴェント「少年翁」でした。お越しくださったみなさん、どうもありがとうございました。とはいっても、これを読んでくれているひとと、昨日遊びに来てくれたひととは、たぶんほとんどかぶっていないとは思いますが。

遊びに来(られ)なかったひとのために、セットリストを。

01.Double Bump/Gold Sparkle Band
02.This Is What Happens/The Keith Tippett Group
03.ジャングル・ブギ/ヴィンセント・アトミクス
04.Un Poco Loco/Bud Powell
05.I Remember Carmen/Sabu Martinez and His Jazz-Espagnole
06.Cantiga Nova Swing/The Dave Brubeck Quartet
07.Too Young/SPEED
08.タイトゥン・アップ~しまっていこう~/ウルフルズ
09.Azimuth/Marcos Valle
10.Irmaos Coragem/Som Tres
11.Happy/Michel Legrand

蛇足&不粋を承知の上で、自己顕示欲求に負けて解説します。

まず考えたのは、茶箱の場所、ということでした。ふだんやっているエッジエンドにしろメスカリートにしろ、いわゆるフロアがあるわけではなく、みなさんおもに座って聴いているわけです。

茶箱は、椅子はありますが、真ん中にフロアがどーんとある。スピーカーもでっかいのがどーんとある。おっきな音で音楽をかけて、フロアががらーんとしてしまう状態はなんとしても避けたい。ということで、踊れる選曲にしよう、と。

ただし、4つ打ちとか、スカパンクみたいのはわたしがやっても仕方ないし、ロックンロールはやはりゲストで出たichiさんがかけまくるはずなので、これもパス。そこで、強烈ポリリズム~強烈ラテンジャズ~強烈アイドル~強烈Jソウル~強烈ブラジリアン~強烈フレンチと、まるで緩急のない、全部直球なアホみたいなセットになりました。うたものは07と08だけで、あとはインスト。

いちばんみなさんの反応がよかったのが、スピードとバド・パウエルでした。バド・パウエルは、現代のクラブでかけられる音像ではないのかもしれませんが、わたしがそんなこと気にする必要はないという確信にもとづき、マックス・ローチ追悼としてプレイ。あってるんだかあってないんだか分からないラテン・リズムが最高。カウベル! カウベル! カウベル!

あるのかないのか分かりませんが、次回、茶箱に出るときは、まったく違った感じでやりたいと思います。

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自分のプレイ以外のことについてもざっと触れておくと(笑)、VJ含め、全体に非常にクォリティの高いイヴェントでした。練習のため、スタート時間前からいて、もちろん最後までいたので、充分に楽しむことができました。ことに、始まってからすぐの時間に次々とお客さんが来るのに驚いた。みなさん熱心。うらやましいぜ。

よく知っている曲やひさしぶりの曲が新鮮に響いてくる瞬間が何度もありました。複製芸術を使った表現活動、なんていうと大げさだけど、理念としてはそういうこと。たった数十分で既存の/正規の音楽史を好き勝手に書き換えることだって可能なのだ、と強く感じさせられました。CDの存在価値は、昔の音楽がいつでも好きなときに聴けるとか、誰にでも容易に手に入るとか、ただそれだけではないんだよね。

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去年から今年にかけてコミュニティ・カレッジでやっていた講座も、うまくいったかどうかはともかくとして、要はそうした、(DVDを、ではなく)映画史をネタに並べたりつないだりこすったりする、DJならぬHJ(History Jockey)だったのかもしれません。

その講座が形を変えて復活です。まず第1回は9月29日(土)の19時~21時、場所は下北沢南口の古本屋+カフェ、気流舎。小さな店ですが、その分ぐんとカジュアルになって、チャージは無料。ドリンクを何かオーダーしてください。

シリーズ化も検討中です。詳細は追って告知します。お楽しみに!
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by soundofmusic | 2007-08-25 18:26 | 日記 | Comments(0)

映画ファンの夏休み

新文芸坐の戦争特集は第2部の熊井啓ウィークに突入したのでとりあえず通うのをやめ(なにが「とりあえず」なのか分からないが)、シネマヴェーラのユナイテッド・アーティスツ特集への通学が始まっています。映画ファンには夏休みはありません。

ジョセフ・L・マンキウィッツ「裸足の伯爵夫人」は、彼の作品をろくすっぽ見ていないようなわたしでも、いかにも彼ならでは、と言いたくなるオープニングの10分間の語り口のうまさが絶品。

回想形式にしろ、踊っているエヴァ・ガードナーの姿は一切見せずにそれを見ている客の反応だけを映すやり方にしろ、現代の眼で見たときにとくに驚くような手法ではないけれど、その抜群の効果には、やはり息を呑む。

こういうときに何か気の利いたことを言わなくてはならないのは評論家と呼ばれる人種だけであって、普通の観客には、ただ息を呑む楽しみが許されている。なにか言いたければ、映画の魔法とか、絶妙の手腕とか、世紀の傑作とか、適当に言っておけばよろしい。

こういうのは常にどっかの名画座でかかっているべき、と考えるのはやっぱ、旧世代的な発想なのか。いまやツタヤと500円DVDが教養の砦(ふん、教養?)。わたしがほとんど家で映画を見ることがないのは、どのみちすべての映画を見ることができるわけではないという諦めと、スクリーンで見られるものだけ見ていてもかなり充実した映画生活が送れるという喜びのせめぎあった地点でのぎりぎりの決断なのだ(大げさな)。

ほんとは、東京に本拠を構えつつ、適宜パリに飛んだり、世界の映画祭をめぐったりする生活が望ましいわけですが。

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で、「少年翁」、いよいよ明日に迫ってきました。楽しいですよ。

おなじみのazさん&SZさんに加えて、ゲストDJは、大人げないロックで胸を熱くさせる男・ichiさん、ポップスへの愛あふれるプレイでキュンとさせるシイナアサコさん、そして、森山の3人。ゲストVJは、みぞおちワクワクなビジュアルの貴公子・つなぽぽさんです。

『少年翁 6』

2007/08/24(金)19:00~23:00
音楽喫茶・茶箱(早稲田)
(地図はサイト内の「INFO」→「茶箱について」にあります)
1000円(1ドリンク込み)

【DJ】
az(少年翁/ムサシノカチューシャナイト/早稲田歌謡大全集/黒の試走車)
SZ(少年翁/ムサシノカチューシャナイト/黒の試走車)
ichi(ムサシノカチューシャナイト)
シイナアサコ(早稲田歌謡大全集)
森山(兄)(Pure Pop For Now People/黒の試走車)
【VJ】
つなぽぽ

mixi少年翁コミュニティ(過去のプレイリストあります) → 
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by soundofmusic | 2007-08-23 15:49 | 日記 | Comments(0)

公式見解

何から何まで完全にひとりで映画を作ることは不可能で、それでいてもなお、ときどき、ある映画に対して「個人的」と感じることはある。たとえば、岡本喜八の「肉弾」とか。しかし、なにをもって個人的と感じるかは、意外と難しい。キューブリックなんかを見ると、監督の意思が強烈に貫徹されているのが分かるけれど、それは個人的というのとは、また違う。

「肉弾」のことを思い出したのは、同じ岡本喜八の「日本のいちばん長い日」を見たから。何十人もの人物が登場し、それでいて誰にもスポットを当てるでもない、きわめてフラットな語り口。いくらでも盛り上げられそうなところをあえて公平に、地味な緊張感を持続させながら綴る2時間半。初見時はつまらない映画だと思っていたが、見直すと傑作。

とはいえ、スターから脇役まで大量の役者を動員し、予算的にもかなりの大作であったろう制作過程は、監督の不満を募らせたともいわれる。その反動で、ATGで撮ったこぢんまりとした作品が、「肉弾」。

わたしは「肉弾」は世評ほどにはいい映画だとは思っておらず、逆に、もろもろの不満も主張もぐっと腹の中に収めて撮りきった「日本のいちばん長い日」のほうに、今回深い感銘を受けた。妙なもので、自分のやりたいようにやった作品が必ずしも傑作になるわけではないようなのだ。

どちらかしか見ていないひとは、これを機にもう片方もぜひ体験してほしい。

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しかしやっぱり「日本のいちばん長い日」には物足りなさを覚えてしまって、それを何と呼んだらいいか、よく分からずにいた。で、熊井啓の「サンダカン八番娼館 望郷」を見たら、これはまったく公式見解に過ぎない映画だと気付き、「日本のいちばん長い日」の株がさらにグンと上がってしまった。

「サンダカン八番娼館 望郷」は、明治以降、東南アジアに売られて売春させられた、いわゆる「からゆきさん」の映画。主人公の若い頃を高橋洋子が、現在の老婆になってからを田中絹代が演じている。田中に話を聞きに行くのが、栗原小巻。

田中の人柄にひきつけられて、彼女のボロ家に栗原が長期滞在し、話を聞く。そのやりとりが細やか、かつ豊かなのに、過去の回想部分は、高橋洋子の熱演にもかかわらず、どこか通り一遍だ。本当にひどい目に遭ったひとに対して「通り一遍」とはひどい言い草なのは承知なれど、田中と栗原の会話の中からすべてがにじんでくるような構成だったら、もっとよかったのに。

たぶん、熊井啓はすごくまじめな性格なんだろう。からゆきさんの悲惨さを可能な限り世に広く知らしめねば、との使命感がひしひし伝わってくる。後期の田中の一世一代の名も必見。すべてにおいて描写は平易で、誤解を招く部分はない。なお、カメラマンは、蔵原惟繕「黒い太陽」でこの夏ちょっと話題の、金宇満司。熊井とは「黒部の太陽」でも組んでいる。

もちろん見たほうがいい映画ではある。しかし惜しむらくは、公式見解に終始しすぎていること。映画館に来てまでそんな話は聞きたくない、と批判するのは、人間として正しくない態度なのかもしれないけれど。

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金曜日、24日は早稲田に集合~! 茶箱でのイヴェント「少年翁」に森山がゲストDJとして登場ですよ(20時から)。選曲は基本いつもどおりで、若干ダンサブルな感じかなあ。イヴェントの詳細はこちら
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by soundofmusic | 2007-08-19 03:20 | 日記 | Comments(0)

告知・告知・告知

告知ものをまとめていくつか。

まずは明日。話題のイヴェントの名前の元ネタとなった増村保造の傑作「黒の試走車」、京橋のフィルムセンターにて上映

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次は来週の金曜日。ここでもたびたび名前を出している早稲田の茶箱でおこなわれるイヴェント「少年翁」に、森山兄がゲストで登場。いつもと同じで、とくに変わったことはいたしませんが、みなさんに気持ちよく踊っていただけるような曲をたくさん用意するつもりです。

詳細は以下のとおり。

☆日程・会場
2007/08/24(金)19:00~23:00
@音楽喫茶・茶箱(早稲田)
入場料:1,000円(1ドリンク込み)

☆DJ
●az(少年翁/ムサシノカチューシャナイト/早稲田歌謡大全集/黒の試走車)
●SZ(少年翁/ムサシノカチューシャナイト/黒の試走車)
●ichi(ムサシノカチューシャナイト)
●シイナアサコ(早稲田歌謡大全集)
●森山(兄)(Pure Pop For Now People/黒の試走車)
☆VJ
●つなぽぽ

☆mixi少年翁コミュニティ(過去のプレイリストあります)


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というか、このメンツでは「黒の試走車」ではないのかとのご意見もおありかと思いますが。で、次回のクロテスはこちら。

「黒の試走車」Vol.7
9月8日(土)19時~23時
@渋谷メスカリート
地図
DJ:SZ、マジック、チバ、森山
LIVE:口石アキラ
料金:500円+1オーダー(500円~)

azさん所用で欠席につき、DJ4人編成。途中で口石くんのライヴが入ります。マイクなし、PAなしの完全アンプラグド。メスカリートならではのお楽しみ。

そして、当日、メスカリートに行く前に、ジャズ喫茶ツアーを開催したいと思います。ツアーといっても、1軒だけですが。4時半か5時に渋谷に集合して、ジャズ喫茶に行ってからメスカリートに移動の予定。

ジャズ喫茶って興味あるけど行ったことない、というあなた。大人数でぞろぞろ行けば怖くないですよ。さらに、オーディオに精通したマジックさんとチバさんがオーディオ的な聴きどころも懇切丁寧に解説してくれます(たぶん)。そのまま金魚のフンみたいにくっついていれば、メスカリートの場所が分からなかったり調べる気がなかったりしても自動的に「黒の試走車」に到着可能!

参加希望者はお気軽にご連絡を。冗談ではなくて実際に決行されますんで。
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by soundofmusic | 2007-08-15 15:27 | 日記 | Comments(0)

映画のような人生

またしても新文芸坐の戦争特集の話題で恐縮ですが、今村昌平の未見の作品を拾いました。劇映画「女衒 ZEGEN」と、ドキュメンタリー「からゆきさん」「未帰還兵を追って マレー篇」「未帰還兵を追って タイ篇」「無法松故郷に帰る」。

「女衒」は、明治~戦前にかけて中国大陸~東南アジアあたりをうろうろして娼家を営んでいた男の一代記。「からゆきさん」は、立場を変えて、同じ時代、同じ土地での暮らしを、売られていた当の女の目から見るドキュメンタリー。

「未帰還兵~」以下の3本は、太平洋戦争終結後も、自らの意思で現地にとどまり、中国人やマレー人と同化して生きる元日本兵のドキュメンタリー。

ドキュメンタリーの4本では、今村が少人数のスタッフ(といってもカメラが姫田真佐久だったりもするぜおい)とともに現地に飛び、ときに横柄とも思えるような口調でインタヴュアーを務める。

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70年代初頭の、16ミリ撮影のこれらのドキュは、映像と音声が完全にはシンクロしていない部分も多々ある。さらには、現地通訳のしゃべるつたない日本語、日本語環境から長いこと離れていたりもする取材対象者(からゆきさん、未帰還兵)が話す、日本語からいつのまにか現地語へとスライドしたりもする発話、といったものの微妙なズレが、反復されながら積み重なり、それぞれの話者は他人の話が終わる前に勢い込んで話し出したりもするもので、ポリリズミックでシャーマニスティックな効果が生じ、見ているこっちは、よく話が飲み込めないことにマゾヒスティックな快感を受けもする(意味わかって書いてんのかよおい)。

それらと比べてしまうと、いかにも今村的と思える「女衒」の世界は、やはり劇映画ならではの整理がなされている。映画における音がいかに周到に整えられ、準備されるものかということをあらためてつきつけられる思いがした(この話はそんなに単純なものではないだろうけど、とりあえず)。

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「無法松故郷に帰る」は、マレー半島から33年ぶりに帰郷した未帰還兵を追った作品。故郷で対面した兄は非常に怒りっぽく、劇中でも盛大に怒っているのだが、その言葉を文字に起こすことはほぼ不可能。ネイティヴの長崎弁話者の方、どなたかご教示を。

この未帰還兵は日本では死んだことになっていて、どうやら、当時の上官(兄の友人でもあった)が、引き揚げ後、この未帰還兵について、死んだと証言していたのであるらしい。それについて、彼は猛烈に怒る。しかしその怒りは、なんだか映画でも見ているような気分にさせられる怒りなのだ。彼はまた、一族の墓に詣でて、泣く。その泣き姿は、やはり映画でも見ているような気分にさせられる泣き姿だ。

現実の人生では、あっ、と思わされたり不意を突かれたりするポイントはそうそうなく、かつ、時間も場所も脈絡なく点在している。それを整理してひとところにまとめ、それらがよく目立つようにいらないものを端っこにどかし、強制的な時間の順列で追体験させるのが映画だ、と定義してみると、自分はなんとまあつまらぬものに金と時間を使っているのか、と思わないでもない。

ともあれ、この今村の5本は、戦争についてどうのこうのというよりも、一般的な映画の成り立ちへと思考を導いてくれたという意味で、なかなか得がたいものがありました。

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来月のPPFNPのゲストなど出揃いましたので、情報をアップしました
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by soundofmusic | 2007-08-13 01:52 | 日記 | Comments(0)

Pure Pop For Now People Volume 62

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2007年09月22日(土)18時~22時

渋谷エッジエンド(Tel:03-5458-6385)
地図。

800円(1ドリンク&おみやげ付き)

DJ:
高嶋里美(Super Seeder)
アツロー(NITRO JENIC)
森山弟(弟)
森山兄(兄、油断していると太りやすい)

LIVE:
ちちぼうろ

満10周年を迎え終わり、盗んだCDで軽やかに走り出したPPFNP。次回、9月は、世界の音楽を盛大に飲み込んでよく咀嚼し日本の音楽に変換するフォーキー・デュオ、ちちぼうろをゲストにお迎えします。

ちちぼうろについてはこのあいだ書いたので、参照してください。デュオとしての活動は10月初旬で停止するので、ぜひみなさんに見ておいてほしいです。ロッキンオンなら「彼らの音楽とともに世界が鼓動し、回転を始めるのを見逃すな」とか書くかもよ(適当)。ひとこと、必見です。必見とか必読とか必聴とか、ほんとはないんですけど、それでも必見。

DJは、まずはおなじみ高嶋さんがひさびさの登場。もうひとりは、3月に出てくれるはずだったのに急遽キャンセルになったニトロジェニックのアツローくん(a.k.a.妄想ピンク)にお願いしました。PPFNPによくハマるんじゃないかとの意見をちらほら耳にします。楽しみです。
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by soundofmusic | 2007-08-12 18:19 | PPFNPイヴェント情報 | Comments(0)

素晴らしい日本の戦争

d0000025_15261082.jpgこのブログは、最初のセンテンスに「新文芸坐」という単語の入る率の高さでは日本でもけっこう上位に入るかもしれないと思うが、その新文芸坐では、夏になると毎年、戦争を振り返る映画の特集が開かれる。

ひとことで書くにはあまりにも複雑すぎるある事情というか理由で、わたしはその手の映画を割合好んで見に行く。とはいうものの半分義理というか義務のような気がしないでもなく、そもそも新文芸坐の特集は、毎年半分くらい(もっとかも)は必ず同じものがかかり、新しい空気の入れ替わりに乏しい。半分入れ替わったらけっこう印象が違ってもよさそうなのに、毎年毎年「またやってるなあ」と思わせられるのは何故なのか。まさか、3年ごとに議員の半分が改選されるが印象としてはわりとずっと澱んだままであるところの参議院の隠喩ではないと思うけども。

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今井正「ひめゆりの塔」を見て、複雑な気分になる。

それは、沖縄戦の悲惨な実態をリアルに(あるいは、そう見えるように)描いているせいももちろんあるけれど、それよりもむしろ、高峰秀子が「日本で5本の指に入る演出家」と書いた今井の腕が、名コンビといっていい水木洋子の脚本を得て、自在に振るわれ、ところどころで天才的な冴えを見せているから。どうしたって、「もしこのひとがこんな映画ばかりを撮らなくて済む社会状況だったらいったいどんな映画を残していただろう」と気になってしまう。

爆薬の使い方や、戦いのさなかにも機会を見つけてははしゃぎまくる少女たちの描写の的確さを見ていると、高峰の言葉にうなづかざるを得ないし、画面に若い娘がたくさん出てきたときに映画監督は何をすればいいのか、を知り尽くしている今井には心底敬服する。

だからたとえば、誰かがこれを萌え系の戦争映画だといっても驚かない。そうしたことで誰かが興味を持ってこの作品を見るのなら、それに越したことはない。映画をめぐる状況でいちばん犯罪的なのは、届くべき観客に映画が届かなくなる各種の事態だ。その意味においては、海外作品の上映権切れも、一度固定されてからまったく更新される気配のない硬直した名作リストも、どうせおもしろくないだろうという個人的な思い込みも、程度の差こそあれすべて同罪なのである。

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だから、あの戦争を語り継ぐ、とか言いながら老人向けの懐かし名画ばかりを並べる8月の企画には断固反対。「ひめゆりの塔」を見ると、絶対に自分はこういう目には遭いたくないと素直に思えるのはたしかだけど、だいたい、若いひとなんて誰も見に来てないじゃないか。

要は見せ方、並べ方の問題。たとえば、「ひめゆりの塔」を成瀬の「おかあさん」とカップリングして、香川京子萌えデイとしたらどうか。この2本を続けて見たら、生きて動く登場人物と同じくらいの存在感で「おかあさん」を支配する各種の死者たちの影に嫌でも気付かされるだろうし、その死者たちがいつ、どうやって死んだかにも自然に考えが及ぶはず。

そもそも、「あの戦争」がどのくらい普遍的で、どのくらい特殊なものだったか、わたしたちはそれすらロクに考えたことがないのじゃないだろうか? 今回の新文芸坐の特集初日の小林正樹「東京裁判」を見て、そんなことを思った。ここを通らなくては誰も先に進めないはずなのに、みんな平然と歩みを進めてしまっている。

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なお、最後に書いておくならば、わたしが戦争映画を好むのは、戦争が恋愛や犯罪と同様、人間性の究極的な発露でもありうるから。そして、わたしが戦争なんてなければいいと考える理由は単純で、戦争がなければ、中国大陸で戦病死した山中貞雄はもっと長生きして、とんでもない傑作を何十本も残してくれたに違いないからだ。死んでいいやつはほかにいくらでもいるというのに、よりによって死ぬのは山中貞雄。

シネマスコープやカラーの画面を山中がどのように使いこなしたか、想像してみても仕方のないことで、せめてできるのは、残された作品を何度も見ることくらい。タイミングよく、11日(土)から、現存するわずか3本の山中の作品のうち1位と2位に輝く、「丹下左善餘話 百萬兩の壺」と「人情紙風船」が、早稲田松竹で2本立てで上映される

はっきりいってこの2本は、現在公開されているどんな映画よりもはるかにおもしろいはずなので、なにかの間違いでここを読んでいるようなひとは、全員駆けつけるべし。

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11日(土)は、早稲田の茶箱で、イカス邦楽中心イヴェント、ニトロジェニックが開催されます。3月のPPFNPでゲストに出てくれた若者たちです。当日欠席だったアツローくんのプレイも最高につき、高田馬場からとことこ歩いていくのもよろしいかと。暑いだろうけど。

ああ、そういえば、茶箱では24日(金)にもおもしろそうなイヴェントがあるんでした。「黒の試走車」でもおなじみのazさんとSZさんによる、「少年翁」。この日はichiさんなどに混じって、森山もゲスト出演(20時ごろからの予定)。みなさんに死んで貰います。じゃなかった、気持ちよく踊って貰います。

なんか茶箱でやってるイヴェントっていろいろあって分かりづらいかもしれないけど、ムサシノカチューシャナイトのひとたちとかニトロのひとたちが出てたらだいたい全部おもしろいんだから、遊びに行っちゃえばいいじゃん。
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by soundofmusic | 2007-08-08 15:26 | 日記 | Comments(0)

ギターを弾く男(たち)

土曜日の「黒の試走車」にお越しいただいたみなさん、どうもありがとうございました。珍しく大盛況、なかなかの盛り上がりを見せました。内容は毎回最高なんですが、こうしてお客さんが集まってくれるとより楽しいです。とはいっても狭い店なので、5人くらい来るとにぎわっている感じになります。ハードル低いやぁね。

今回、個人的にはマジックさんがいちばんの衝撃。ポリーニによるショパン(メタルなコード進行)、ビル・エヴァンス、モンク、プロフェッサー・ロングヘアと、さながらピアノ大会でした。自分で言うのもなんですが、いま東京でいちばんおもしろいイヴェントだと断言できます。

次回は9月8日(土)。口石アキラさんによる完全アンプラグド・ライヴもある予定。未体験の方、ぜひとも遊びに来てみてください。なお、名前の元ネタとなった、増村保造「黒の試走車」が、8月16日(木)19時と9月23日(日)16時から、京橋のフィルムセンターにて上映されます。わたしは16日に行きます。こちらもおもしろいので、どうぞ。

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昨日は、新高円寺にちちぼうろのライヴを見に行ってきました。

たぶん轟渚さんがらみで知ったこのデュオのことはなんとなく気になっていて、そのうちPPFNPのゲストにお願いしたいなあと考えていたのだけれども、一度ちゃんと見てから、と思っているうちに、なんと10月で活動停止することになってしまったそうなので、じゃあその前に、と駆け込みで9月の出場を依頼し、ご快諾いただいた次第。

で、出てもらうことが正式に決まってから見てみると、なんというか、いままでとくに気にしていなかった異性を交際相手として意識するような感じ、でした。わたしは私生活においてはそういう方法をとらないし、そもそもちちぼうろは男性デュオなのだけど、にもかかわらず。

ジョーさんと湯治さんのギターは、子供にもてあそばれているおもちゃみたいに不意に思わぬ音を立てる。1曲目はラグタイムっぽく始まり、2曲目はどんよりと霧のかかった英国フォーク風、3曲目はアップテンポなサンバ(ボサ・ノヴァか?)。そしてそれらが全部かみ砕かれて、日本の歌になっているのに興奮。

度を越して老いた人間がしばしばおじいちゃんだかおばあちゃんだか分からなくなるように、いいうたは長いことたつと、そのうち、国籍が消滅する。「蛍の光」はたしかスコットランド民謡だけれどもそんなことは誰も気にしていないはずだし、「森のくまさん」にしても「ドナドナ」にしても、そうだろう。ちちぼうろもそれに続く……か?

帰り際に湯治さんと話したら、わたしが英国フォーク、ないしはアシッド・フォークと感じた曲について、「モーダル」と形容していた。そうか、そういわれればそのとおり。で、もしかすると、デイヴィッド・クロスビーの「グウィニヴィア」をマイルス・デイヴィスが採り上げていたのは、アシッド・フォークのだらりとしたテイストをモーダルと読み解いた結果だったのかもしれないが、こういう話は難しいとか言われそうなので、このへんでやめる。

自分でギターを弾くひとには、必ずや発見と驚きに満ちた時間になるものと確信する。もちろん、それ以外のひとも必見。とくに太田さんと宇内さんはお見逃しなきよう。9月22日のPPFNPをお楽しみに。
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by soundofmusic | 2007-08-06 17:21 | 日記 | Comments(2)