A
①森山弟 (もりやま・おとうと) ②9月24日 33歳 ③弟 B 2008年の総まとめ: ○鳥映画「WATARIDORI」(01年/ジャック・ペラン監督)を3度見て、うすうす感じていた「水鳥最強説」が確信に変わった。水鳥は空と水と陸を制覇してるから生き物の進化の最終形態じゃないかと思う。 ○用事があって初めてハワイに行った。旅のよしあしを決めるのは一緒に行く人だと心底思う。旅行中はなんでもかんでも無闇に許したり、腹が立つことには素直に腹を立てたりできて全体的に本当に最高でした。 ○ささやかさとつつましさについて不思議とよく考えた。ちょうどそんな時に「江分利満氏の優雅な生活」(63年/岡本喜八監督)と「名もなく貧しく美しく」(61年/松山善三監督)を立て続けに見て、人並みであることの特別さを思い知らされた。身の程をわきまえて生きることのなんと高潔なことか。涙がこぼれそう。こころある人みんなが見てくれるといいなと思う。 ○その流れで鈴木祥子のことを思い出す。付かず離れず20年近く、ひとりの女性の生き様を見るような感覚で彼女の音楽と接してきたことに気がついた。彼女のファンは現在35歳~40歳くらいの女性が中心だと想像しますが、その勝手に想像した人たちの、小さな幸福だとかそこはかとない哀しみなんかをゆるく飲み込みながら(鈴木祥子の音楽を傍らに)歩んできたであろう日常をさらに勝手に想像して、簡単には割り切れない複雑な感覚をおぼえた。 2009年への展望: ○ここ3年はかなりろくでもない感じだったので、少しはましな1年になってもらえるとありがたいです。 ○そろそろ森のことをきちんと考える時期に来ている。ソローの「ウォールデン/森の生活」でも読もうと思う。 ○チャットモンチーが大化けする。 C ハワイ旅行で印象に残ったことベスト3 第3位:ナニジンだと思ってんだ(その1) 行きの成田空港で軽く食事をということになってビュッフェに入った。代金を払うときに考えごとをしていて、出したお金が100円足りなかったらしい。するとレジ係のおっさん(日本人)が自分の手のひらに乗せた100円玉を指差しながら「ディス、ワンモア、ディス」と片言の英語とジェスチャーで100円足りないことをアピールしてきた。 おっさんのがんばりをそれはそれでありがたく思い、黙って足りない分を支払った。ナニジンだと思ってんだ。 第2位:ナニジンだと思ってんだ(その2) ハワイ到着。友人たちと街をブラブラ歩くと、次から次に客引きがあやしい日本語で声をかけてきてまっすぐ進むのも容易じゃない。日本人と見ればグループだろうが個人だろうがとにかく声をかけている。最初は物珍しさにいちいち見てたけどすぐに飽きてしまい、以後は単なる通行の障害物になった。 半日もあればワイキキの地図はほぼ完全に頭に入るし、友人たちの顔も見飽きてくるので翌日はひとりで歩いた。相変らず客引きの数は多いのに昨日と違ってスムーズに足が進む。誰も僕に声をかけてこないからだと気づいた。 挙句の果てに観光客と思しき初老の西洋人夫婦に道を訪ねられる。「サーフライダー・ホテルならこの道をまっすぐ行って右側です」と答えた。ナニジンだと思ってんだ。 第1位:ナニジンだと思ってんだ(その3) 帰りのホノルル空港。チェックイン・カウンターでアロハ・シャツに身を包んだ沢村一樹風のイケメンがさわやかな笑顔で迎えてくれた。英語であいさつされたので現地の日系人だと思って英語で返す。パスポートと航空券を提示。沢村風は手際よく手続きをしながら、今日は空席が多いから好きな座席に変更できるけどどうするかと聞いてきた。3列でも4列でもかまわないので前が通路になっている席か、そうでなければまわりに誰もいない4列の席にしてくれと頼むと、そのとおりにしてくれた。この程度の説明でも英語だと結構面倒だなと思う。 2時間ほどやりすごして搭乗口に行くと、沢村風が今度は搭乗客の見送り作業でそこにいた。客のおばちゃんたちに「いってらっしゃいませ。日本は寒いですから風邪にはくれぐれもお気をつけて」とどう聞いてもネイティブな日本語でさわやかにあいさつしていた。 いったい沢村風はなにが楽しくてあの時英語で話し続けたのか。ナニジンだと思ってんだ。パスポート見せたじゃん。 D 「点字ブロックはまたぐことにしている」 何かたいそうな思想に突き動かされてるというのではなくて「上を歩くとなんとなくブロックがすり減るような気がするから」というのが理由。この理由も後付け気味で、実際は横断歩道の白い部分だけを使って渡ろうとする(白くない部分は落ちて死んじゃうルール)系のあれに近い。小学校の登下校時に消火栓の看板の「火」の部分を数年間毎日蹴り続けてたら文字通り「火」が消えて「消○栓」みたいになった経験との因果関係についてはもう少し踏み込んだ考証が必要(面倒なので多分やらない)。 点字ブロックをすり減るほど踏もうと思ったら相当な時間と労力がいることは消火栓の経験で知っているし、逆に自分ひとりがまたいでも他の人たちが踏んでたら結局はすり減るんだけど。 スイスの都市部ではエコの観点から路線バスにもパンタグラフが付いていて電気で走ってる。電車と違ってレールがないから走行中のバスが架線の下のルートから左右に外れることを想定して作られた異様に柔軟なパンタグラフが、カーブの時に南京玉簾のように伸縮するさまは見ていて楽しい。あんまり伸びるもんで、そこまでやるかと僕が笑った時に「国の人口が東京の人口より少ないスイス人が何をしたって世界レベルで見ればなんの影響もないかもしれないけど、小さい国だからこそみんなでできるんだし、だからおれらはそれをやるんだ」と言ってた友人のことばが忘れられない。 国家レベルで身の程をわきまえてるのがなんとも素晴らしいじゃありませんか。 E CD685枚(邦:洋:クラシック=66:378:241)/¥545,918 ディスクユニオン各店で577枚 その他で108枚 F 特によかったもの: ◇ミシシッピ・フレッド・マクダウェル「ミシシッピ・フレッド・マクダウェル」 (Mississippi Fred McDowell/62年録音71年リリース/米/ミシシッピ・デルタ・ブルーズ) もし悪魔がいたらきっとこんな風に歌うんだろうと思う。うちのディスクガイドの帯に「誰も生きてブルーズから逃れられない」と断言されてておっかなくなりましたが、このおどろおどろしいボトルネックで延々と唸る、ひたすら濃厚なデルタ・ブルーズを聴くとそれもまんざらウソでもないんだろうと思います。何か得体の知れないものに首根っこ捕まえられてぐいぐい沼に引きずり込まれるような感覚。 最近買った津軽三味線の高橋竹山になにかこれと似たようなものを感じて、日本のブルーズは東北にあったんだなと思いました。 ◇ケレン・アン「さよならは言わない」 (Keren Ann “Not Going Anywhere”/03年/フランス/SSW) これだけベタな邦題も最近珍しい。この人のことは知らなかったんですが、秋にニューヨークへ行ったアニがおみやげで買ってきてくれまして「どうせお前はこういうの好きだろ?ほら」って感じ(想像)で郵送されてきました。 やわらかなフランス訛りの英語が繊細な音に心地よい緊張感を漂わせて、結果的にとても良質なフォーク・アルバムに仕上がっています。 ◇オムニバス「ザ・ゴールデン・アップルズ・オブ・ザ・サン」 (Various Artists “The Golden Apples Of The Sun”/04年/米/フリー・フォーク) デヴェンドラ・バンハート編集によるフリー・フォークの入門書かつ決定打。限定生産で現在廃盤なので、まともな値段じゃ買えないだろうと諦めかけていたところを池袋のユニオンで発見→900円!?→小躍り→速やかに確保。主要アーティストを網羅しているのでシーンの俯瞰に最適。 ◇イザベル・キャンベル「ミルク・ホワイト・シーツ」 (Isobel Campbell “Milk White Sheets”/06年/スコットランド/フリー・フォーク) ご存知元ベル&セバスチャンのチェリストのソロ4作目くらい。トラッド・フォークのカヴァーと自作曲が半々で、60~70年代ブリティッシュ・フォークのあの薫りが充満した作品。ほぼ全編が彼女の生ギターと声だけで構成されていて、シャーリー・コリンズやアン・ブリッグス、さらにはヴァシュティ・バニアンといった女神たちの影がちらつきます。その上ほんのわずかに施されたストリングスのアレンジが完全にニック・ドレイク!とにかく美しい。 ◇メグ・ベアード「ディア・コンパニオン」 (Meg Baird “Dear Companion”/07年/米/フリー・フォーク) フリー・フォークの道に引きずり込まれるきっかけとなったエスパーズのボーカリスト、メグ・ベアードのソロ。これはすごい。2008年に買ったものでいちばん、それも圧倒的によかった。 ごくまれに(500~1000枚に1枚くらいの割合で)、時の流れと無関係にぽつねんと存在しているような不思議な普遍性を持つ作品に遭遇することがあります。産み落とされた瞬間に古典になってるような、脈々と続く過去半世紀分の音の記憶が瞬間的にフラッシュバックする感覚はギリアン・ウェルチのファーストの衝撃に近い。ここまで奇跡的に美しい英国フォークが現代のアメリカ人によって作られたことにも驚愕しました。 ◇曽我部恵一ランデヴーバンド「おはよう」 (07年/日本/フォーク・ロック) もうずいぶん前から、サニーデイ・サービスの4枚目(牛のやつ)を聴いて以来だから10年以上になりますか、曽我部恵一がギターとピアノと歌だけのピンク・ムーンみたいなアルバムを作ってくれたら最高だろうなとずっと思ってきた。 このアルバムはアコースティック編成(ギター、ピアノ、ウッドベース、アルトサックス)でその理想に今まででいちばん近い作品。ドラムレスなのがうれしい。リラックスした雰囲気の中にたくさんのやさしさとほのかな哀しみを散りばめた愛情に満ち溢れた内容で、しんみりした後に小さな希望の光が差し込む感じがたまらない。なにしろ構えずに聴けるところが素晴らしいです。 特につまらなかったもの: ◆コールドプレイの新しいやつ すごく安く置いてあったのでうっかり買ってしまったけど相当くだらなかった。一度飛ばし聴きして残ったのは、もったいぶってんなぁという印象だけ。今回聴きなおしてみるとそこまで悪くなかったけど、やっぱりさほどよくもない。これよりいいものを即座に200枚挙げられるレベル。 知らず知らずファーストから全部買ってたけど、次は多分もうない。 ◆ザ・グッド、ザ・バッド&ザ・クイーン ボーカルがブラーのデーモン・アルバーン、ベースがクラッシュのポール・シムノン、ギターがヴァーヴのサイモン・トン、ドラムがフェラ・クティ&アフリカ’70のトニー・アレンという恐ろしく豪華&エキサイティングな顔ぶれ。よくわかんないバンド名もなんかかっこいいし、これは21世紀のスーパー・グループ登場か!?と思いきや、どういうわけかこれがまたつまらない。役者がそろってるだけにもったいない感が倍増。 そもそもここ10年のデーモンの迷走ぶりはとても歯がゆい。それでも我慢して聴いてみると、40代になった彼が向こう10年以内に素晴らしい作品を創り出すのではないかという期待がどうしても捨てきれないのです。レイ・デイヴィスの後継ぎはあんたしかいないんだから、がんばってよ。 ◆ファーギー(ブラック・アイド・ピーズ)のソロ これも結構ひどい。BEPではあんなにチャーミングなのに、しかもウィル・アイ・アムがプロデュースでどうしてこうなっちゃうのか。彼女の魅力を意図的にスポイルしたとしか思えない不可解すぎる一枚。素材にファーギーを使って悪いものを作る方がむしろ難しそうなのに、それを見事にやってのけてます。彼女の最大の魅力である歌が全然聞こえてこない。サウンド・プロデュースの重要性を逆の意味で再認識させてくれるうれしくない例、というかこれはもはや犯罪。
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