実家に帰っていたので、そこでひさしぶりに見たテレヴィ(自宅にはないので)で見たナイターで見たホールトンの高めの速球で三振を取る様子に一瞬全盛期の江川を思い出したこと、とはいってももちろんわたしが見ているのはプロ入り後の姿に過ぎず、確実に(もちろんテレヴィで)見た記憶があるのは1984年のオールスターゲームにおける8連続奪三振くらいであること、翌日にまた見たテレヴィでによれば韓国の歴史教育熱が日本のそれとは比べ物にならないほど高く、中学校高に「独島部」という部活?があること、なんかについて書こうと思っていたんだけど、今日知った別の話題のほうがおもしろそうなのでそっちの話をすることにします。写真は実家近くで撮ったものです。
東京新聞の朝刊を読んだら、ジャズ・ピアニストの大西順子が現役を引退するとの小さな記事があり、そこに、彼女の公式サイトからの引用として以下の一文がありました。 自分のための演奏はできても、オーディエンスを満足させるパフォーマー、クリエーターにはなれない、むしろ研究者でいたいという結論に至りました。 これだと、なんというか、体力の限界というか、百球肩というか、そういうものを感じさせるわけですが、全文を読んでみたいと思って公式サイトを探すとこれがちょっと見つけづらい状態。そしてようやく見つけた全文がこれです。 思うに、共同通信による記事(東京新聞に載っていたのもたぶんこれ)に引用されていた部分よりも重要なのは、たとえば以下のような箇所だったのではないでしょうか? 私が発表してきたものは果たして「自分の音楽」と呼べるものだったのでしょうか? 結局既に存在するものを自分というフィルターを通して焼き直すだけだったようにも思われます。 時として、それはオリジナルを台無しにすることも多々あったんではないでしょうか。要は自分のための勉強、もっと言えば、自分の為だけに、というエゴをそのまま仕事にさせて頂くという本来ショービジネスにはあってはならないことを生業にしてきたと今痛感しています。 ときどき、謙虚さの方向が間違っているひと、というのがいるわけですが、少なくともまともにものを考える能力のある日本のジャズ・ミュージシャンであれば誰もが一度はぶちあたるであろうこの問題にまともに体当りして、それで引退を決意してしまうというのは、やはり首を傾げざるをえないわけで。 わたしは大西のアルバムを全部は聴いていないものの、デビュー作『ワウ』は、たしか明治公園のフリーマーケットで200円で買ったのですが、なんてことをいまだに覚えているくらいには鮮烈でして、ここに入っているデューク・エリントンの曲「ロッキン・イン・リズム」は、明らかにニューオリンズのセカンド・ラインや南部ロックあたりも消化した表現で、いわゆるロックの影響を受けたジャズであるところのフュージョンをまったく好まぬわたしにとって、とてもアクチュアルな、「現代の昔のジャズ」に聞こえました。 かなりの年月の沈黙のあと復帰してからの作品、『楽興の時』(2009)と『バロック』(2010)も普通に愛聴していて、次はどうなるのかなと、もちろん常にではないにせよ気にしてもいました。ところが彼女自身は、自分の作品を、「クリエーターの作品というより、研究作品」としてみなしているようで、しかしわたしにいわせれば、いまの時代、まったく研究作品の要素がない、100%クリエイターの作品であるようなジャズなんて、そうそう望むべくもない。これは人種だとか国籍だとかの問題ではなく、2012年、自分の作品をそう主張して、なおかつそれに対して誰も反論しない、そんなジャズ・ミュージシャンなんて、世界のどこにもいないはずです。 現代において、ジャズが、ポピュラー音楽のほかの分野よりも「研究」の割合が高いことはほぼ確実と思え、それには良い面も悪い面もあるのでしょうが、ともかく、そんなもん、みんながやってるように、適当に割合を調節しておけばいいだけの話なのに、と気軽に発言してしまうのは、こっちが単なる聴き手にすぎないからなのでしょう。 大西さん、ある時期までのジャズの伝統として、夭折、というのがありましたね。あなたの歳ではもう夭折とは呼ばれないでしょうし、別に引退=死でもないので急にこんな話題を持ち出すのは不謹慎であり不適切でもあるのは分かっています。そして、大西さんなら当然ご存知の通り、ある時期からのジャズのもうひとつの伝統として、晩節を汚す、があります。 西のレーベルから「未発表音源ないか」と訊かれれば、テレコで録った粗悪な音質のライヴ・テープをほいほいと売り渡し、東の国から「ぜひとも来日を」と請われれば、ロクに動かぬ手を鍵盤の上に踊らせるためにファースト・クラスに乗る。それがある種のジャズ・ミュージシャンの暮らしのありかただったのではないでしょうか。 大西さん、あなたがメジャー・レーベルとの契約時代に稼いだ巨万の富で悠々自適の生活に入るのか、それとも真摯に学究生活を送るのか、もちろん後者であるのでしょうが、金に困ったらぜひ何度でも、復帰作をレコーディングしたり、これが最後、と銘打って来日公演をおこなったりしてください。あなたが自分自身のためにする演奏は、なまじっかなミュージシャンがオーディエンスを満足させるためにおこなう演奏の何倍も過激で、刺激的で、美しいものであるのは間違いないでしょうから。
by soundofmusic
| 2012-08-28 19:59
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