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黒と白

黒と白_d0000025_0475732.jpgモーガン・ネヴィル監督の映画「バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち」を見ました。原題「20 Feet from Stardom」がこういう邦題になっちゃうことの是非はさておくとして、日本語のタイトルが示すとおり、バックコーラスの女性たちのドキュメンタリーであって、まあおよそ音楽に興味のないひとは見ないだろうとは思いますが、これめちゃくちゃ面白かった。

この映画については、面白さを書こうとすると、こんなひとやあんなひとが出てる、こんな映像やあんな映像がある、こんなエピソードがある、となぜか全部だらだら書いてしまいたくなる。だから、豪華な証言者の顔ぶれと、証言者たちと比べると知名度は100分の1か1000分の1くらいだけれども実力については申し分のないこの映画の主役たちについては、ひとまず黙って予告篇見てみてよ、と言っとく。

見ている間は、ソウルフルな彼女たちの歌声と、その実力に見合った賞賛を必ずしも得られるわけではないショウ・ビズの栄光と悲哀、みたいなものに目と耳をゆだねてたんだけど、見終わって少したってみると、白人男性の世界にやってきた黒人女性の話なんだなと思った(ひねりのない言い方)。判で押したように「父親が牧師で……」「子供のころから聖歌隊で歌って……」と語られる来歴。そうした彼女たちは、ただ楽譜を読んで歌うだけだった従来の白人コーラス・グループに取って代わって登場し、エモーショナルな歌で音楽業界を刷新した。そこにもってきて、黒っぽい音を求めた英国のロック・ミュージシャンたちや、若い世代のシンガー・ソングライターたち(キャロル・キング、ジェイムズ・テイラー)なんかもこぞって黒人コーラスを起用したと。

そもそもいちばん最初に流れるのがルー・リードの「ワイルド・サイドを歩け」で、たしかにあの、黒人コーラスがうたう♪And the colored girls go "Doo do doo do doo do do doo.."♪のフレーズはあまりにも印象的なんだけど、えっまずそこなの? と若干の違和感のようなものを覚えたのもたしかだった。あとは途中で誰だかが言ってた、「ずっとおとなしくしろって言われてたけど、ロック時代になって素をどんどん出せってことになって、それで生き延びた」みたいなセリフ。

もちろん、大物黒人スターのバックで彼女たちがうたうところもフィーチュアされているけど、わたしの受けた印象は、白人ロック・ミュージシャンたちが本物の音楽のために彼女たちを起用して成果を上げ、彼女たちもフックアップされてよかったね、WIN-WIN! みたいなもので、これって視点が偏りすぎだろうか。少なくとも「黒人音楽のドキュメンタリー」ではないと思ったし、だからこそアカデミー賞を取れたのでもあるのでしょう。

もっとも、露骨な印象操作があるとか、それによって肝心のうたがよく聞こえなくなってるとかそういったことはまったくないので、文句なしに楽しい映画ではありました。お気に入りのエピソードをひとつあげると、レーナード・スキナードの「スウィート・ホーム・アラバマ」という曲がありますが、これにコーラスしてくれと頼まれて、アラバマなんてぜんぜんスウィート・ホームじゃない! つって断ろうとしたって話。頼むほうも頼むほうだけど、この曲、ニール・ヤングの「サザン・マン」とか「アラバマ」に対するアンサー・ソング(というかおちょくりっぽい曲)なんですね。サザン・ロックに明るくないんで知りませんでした。すごく勉強になった。彼らがTVに出てこの曲を演奏している映像が使われてますが、その演出には笑いそうになったので各自確認してみてください。

アラバマっていうと人種差別のメッカ(って言うとメッカに失礼)みたいなところだって印象ですけど、白人音楽と黒人音楽がもっとも美しい形で融合した場所のひとつであるところのマッスル・ショールズもアラバマ州なので、要するに、物事そんな単純じゃないってことです。続きは明日12日公開の映画「黄金のメロディ マッスルショールズ」を見てから、なにか書こうと思います。

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さて、「バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち」は今晩11日(金)まで早稲田松竹でやってますけど、明日12日(土)は18時から、PPFNP第102回です。100回に近づいていくのはありがたみっていうかワクワク感がありましたが、通過すると単にハンパに数字が増えていくだけですね。とはいえ今回はスタートしてから満17年であり、また、毎夏恒例のジョー長岡さんミニ・ライヴもフィーチュアされるのでスペシャル感はあると思います。当日は台風も通過してめちゃくちゃいい天気になることでしょう。気温も相当あがるでしょうから、うたいながら汗噴き男→汗拭き男へと変貌するジョーさんが観察できるはず。お楽しみに。詳細はこちら。19時半くらいまでに来ればライヴのスタートに間に合うと思うので、よろしくどうぞ。
by soundofmusic | 2014-07-11 00:53 | 日記


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