気が付くと東京に20年以上いるのに、とはいっても正確にはその半分以上は都下と埼玉県に住んでいたけどそれはともかく、行ったことのない場所は当然のことながらまだまだたくさんあって、先日初めて、サントリーホールに行ってきました。
1987年から毎年おこなわれているらしい「サマーフェスティバル」、なんとなくこの名前がアイドル関係のイヴェントっぽさを感じさせるのですが(ハロプロ系か?)、その連続的な催しのひとつ、シュトックハウゼンの「歴年」を見聞きしてきました。本作が発端となって巨大オペラ「リヒト(光)」というのができたそうで、今回のフェスでは「歴年」の雅楽版とオーケストラ版のみが上演され、わたしが見たのはその雅楽版のほう。 どんなもんなのかってことは一応ここに詳しく書いてある。行く前に目を通してみたものの、どうも言葉の説明がすんなり頭に入ってこなくて、でも実際に見てみると、それこそ子供でもわかるようなとっつきやすい構造なのでした。 まずホールに入ると、舞台上には「1977」の数字が大きく書いてある。これは初演の年の年号であって、パンク・ロックの勃興とかとはたぶん関係ないと思われます。開演前、舞台装置の写真を撮ろうとして係員に制止されてるひとがいた。別にいいじゃんって思うんだけど(この写真は初演時の様子)。4つの数字の上にはそれぞれにひとりずつ、合計4人のランナー=舞人が場を占めて、千の位のランナーはゆっくり、一の位のランナーはすばやく、自分の数字の上をどたばたと駆け巡る。走るに連れて4人の背後の電光表示の数字が少しずつ増えていって、最終的に1977年にまで到達する。4人のうしろにはそれぞれ何人かの演奏者たちがいて、自分の担当の演奏者たちの出す音によってランナーは歩みを進めるという4層構造。 もちろん、ただ音が鳴って淡々と時間が流れるだけでは面白くない。途中で何度か悪魔の妨害が入る。まずは黒服の悪魔(尻尾つき)がランナーたちひとりひとりを訪れ、真っ赤な花束を差し出して誘惑するけれどもランナーたちは動じない。ところが悪魔たちは折に触れてうまそうな料理とか物珍しい機械(たくさんのホーンのついたオートバイ)とか半裸の美女(+レイジーな響きのビッグ・バンド・ジャズ)なんかを出してきて、そうなると、あっけなくそういったものに気を取られて、走るのをやめてしまう。なにしろ人間ですから。 そこで天使が出てきて、悪魔を追い払ったり、客席に向かって拍手で鼓舞するように呼びかけたり、時間が歩みを止めないようにあの手この手で対抗する。わたしはなにしろあらすじを書くのが苦手だし、めんどくさいのでそろそろやめにさせていただきますが、こうして書いてきちんと伝わっているかどうか、明快すぎるほどに明快な図式だし、その結果、相当にキッチュな舞台でした。たぶん生まれて初めて見るオペラがこれでいいのだろうかと首をかしげつつ、いや、ほかのオペラもこのくらいキッチュなのに違いない、と根拠もなく確信してしまいました。 数字のありかたはデジタルなものをアナログで見せていたし、天使と悪魔、東洋と西洋、対立する要素が激突するときの軋轢と笑い、みたいなものが、いささかわかりやす過ぎる形であらわれてて面白かった。天使と悪魔というのが出てくるあたりは日本ではない発想だなあと一瞬思ったけど、日本でも天照大神が天岩戸に隠れたのをみんなではやし立てて引っ張り出す故事があるし、悪魔はいなくても狸や狐に化かされたり鬼に金棒で殴られたりすることはしょっちゅうあった。 音はといえば、キーンという甲高い電子音のようなドローン(笙?)、ドルフィーを連想させるひずみを持った音(篳篥?)、ミニマルな軽金属系の鳴り物。エレクトロニカのようでもある。ウードのような琵琶、ジャズ・フルートみたいな濁りのある笛。ふだん雅楽器を聴くことってほぼないから単純に新鮮さをずっと感じていて、でも、それが一般的な雅楽器の使われ方とどこでどのくらい違うのかわからないのはちょっと残念だった。別の日に上演されたオーケストラ版は、同じものを洋楽器でやったものだそうで、初演の際には黛敏郎が、「そんな簡単に西洋楽器に置き換えて演奏できるものだったらそもそも雅楽器でやった意味がない」みたいに批判していたらしいけど、まあそれはちょっと違うんじゃないか。だからむしろオケ版だけ行くのもありだったかなと、実際に雅楽版を見たあとのいまではそう感じている。そっちのほうが「日本のロック」みたいで楽しかったんじゃないかと。 この日は第二部に、一柳慧による新作「時の佇い 雅楽のための」も演奏された。ちなみに一柳慧というのは昔、オノ・ヨーコ(そのころはまだ小野洋子だったのかな?)と結婚していたことがあるひとです。こちらの曲も雅楽器を使った現代音楽で、何台かあった琴のうち2台が、弓弾きされていて驚いた。エレキ・ギターを弓弾きしたジミー・ペイジの故事にヒントを得たのかな? しかもそのうち1台は……とここまで書いたところで数え方の単位が正しくは「台」ではないことに気付いたけどまあいいか……そのうち1台は縦置きされて、ヴィオラとかコントラバスとかみたいに弾かれていた。これがとんでもないことなのか、普通じゃやらないけどまあときどきあるよね、くらいの出来事なのかわからないのはなんとも歯がゆい。しかし普通に置かれた状態で弓で弾かれている琴というのも相当異様で、想像していただきたい、なんというか、ノコギリでギシギシやってるみたいで、マグロの解体ショウを連想してしまったのでした。 --- 今週の土曜日、09月06日(土)は、19時から、月例DJ会「黒の試走車」です。今月はレギュラーの籠さんは欠席、ゲストには中野さんと岡村くんをお迎えします。ふらっと寄って、気楽に聴いていただければなによりです。わたしは、最近買っているのがソウルばっかなのでそういうのが多めになるかもしれません。イヴェントについて詳しくはこちら。
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| 2014-09-02 16:52
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