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美の美

前回ちらっと書いた、ダグラス・サーク「心のともしび」のDVDが香港から届いて、さっそくちょろっと見てみると、こちらは無事、英語字幕がついていた。ほっとしたのもつかの間、すっかり忘れていたけれど、英語字幕を読むのは時間がかかるのだった! 字幕を読みながら話を追っていると画面を見ているヒマがなくなり、これではまったく映画を見ていることにならない。それならば、画面をしっかり見つめて、耳をそばだてて、聞こえるところだけ聴き取るようにしたほうが、よほどいい。

なんだかなあ。字幕についてふだん考えていることを再確認するだけの結果になってしまったみたい。

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字幕については、このあいだ見たアラン・レネの「二十四時間の情事」での体験も面白かった。初めて見ましたが、アラン・レネのハッタリ映画術が見事に実を結んだ傑作だと思いました。最初の方、広島市内を車で流していくところなんか、見ているだけでなんとも気持ちよくて、字幕を読むのも忘れる。ひとつひとつのショット、小憎らしいくらいに決まりまくった構図。

ご存知の方はご存知のとおり、これは、映画の撮影で広島にやってきたフランス人女優が日本人建築家と恋に落ちて、女は「わたしは広島ですべてを見た」と言い、男は「いや、キミは何も見なかった」と返すという、話だけ聞くとなんだよそれ的なものなのだが、やはり映画は、実際に見てみないことにはなにも分からない。

これはまずもってたいへん美しいフィルムで、戦争を題材にしてこれほど美しい映画が撮りうるというのは、わたしには目からウロコだった。こんなに美しくていいのだろうかと奇妙な気分になるし、おそらくいまだかつて(そしてたぶんこれからもずっと)日本の戦争(関連の)映画はこれほどの純粋美的水準にたどり着けないだろうことを思うとくやしい気分にもなる。

亡くなった市川崑監督に関するコメントの中で、誰が言ったのだったか忘れたが、監督は真善美でいえば圧倒的に「美」のひとだった、というようなのがあって、なるほどなあと感心したものだったけれど(わたしがその意見に賛成するかどうかは別にして)、彼がこの映画を「一口では言えないくらい好きだ」と評するのも、分かる。

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たまたまでしょうが、先週、愛読しているブログがふたつ、相次いで閉鎖されました。書いてらしたおふたかた同士はたぶん交流はないだろうから(わたしもそのふたりとはほぼ無関係)、相次いで、という言い方はヘンなのだけど、どちらもウェブ上でのトラブルが原因らしく、本人にとってみたら不愉快だったり身の危険を感じたりするのだろうけど、いずれにしても残念なこと。

世間ではブログというとよく燃えたりしているそうですが、わたしが経験したウェブ上のトラブルというのはほぼ100%、わたしが口がすべって言わなくてもいいことを言ったのが原因なので、なんのことはない、それじゃあ実生活と同じである。そんなことはどうでもいいのだけど、世の中くだらないゴミブログの量のほうが圧倒的に多いんだから、トラブルを起こすひとはそういうゴミのところでやってほしい。おもしろい文章は世の中の貴重な財産なのであって、そういうひとたちの書く気をなくさせるような行為は、これはもう、犯罪。
by soundofmusic | 2008-08-24 17:29 | 日記


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